紅葉こいき/もみじこいき/短編 戦場下の少年(表) 戦争はたくさんの犠牲を出します。 昔からのしきたりのように、人々は戦争を続けます。 この世に人がいる限り、戦争は終わりません。 だって、人は浅はかだから。 どこかで、戦争はいけない、みんなそう思っています。 それでもやめられないのは、人の心が複雑だから。強欲だから。意地を持っているから。プライドがあるから。あるいは、おかしな考えをしているから。 戦場には兵隊が向かいます。 しかし必ずしも大人の人ではありません。 子供も、戦場に向かいます。 今も、少年が荒野にいます。 少年には剣が向けられています。 剣を持っているのは、少年より倍程年をとっている男。 二人共互いを睨んでいます。 「生きたいか」男は問いました。 「生きたいですね」少年は答えます。 「では、このまま南へ行き、村へ行け。 兵隊なんてやめて、静かに平和に暮らすんだ」男は言います。 少年は首を振りました。 「僕は、ここでしか生きられません」 男は黙っています。 「僕は、国を裏切る事が出来ません。 大切な物を残して、一人逃げる事は出来ません」 男は剣を握る手に力を入れました。 「死にたいのか?」 「死にたくありません」 「今俺を欺いて逃げれば、命は助かったはずだ」 「そういえばそうかもしれませんね」少年はうなずきます。 「俺は、娘がいる。 同じ位の年の君を殺す事は、出来れば避けたい」 少年は微笑んだ。 「優しいお方ですね」 「そう言って貰いたいわけではない。 ……戦争なんて、虚しい物だな」 「そうですね」少年はまたうなずきます。 「君みたいな子供がこんな危険な目に合うなんて、この世の中は腐っている」 「でも僕もあなたも、そんな世で生きている」 少年の言葉に、あぁと男はため息をつきました。 「その通りだ。だから腹立たしい」 「僕を殺しますか?」少年はすかさず聞きます。 「仕方の無い事だ。 ……許してくれ」 男は剣を振りあげました。 剣は振りおろされ、少年は避け、男から剣を奪った少年は、その剣を振るいました。 「許してくれ……僕もそう思います。 殺すつもりじゃなかったのに」 剣の扱いなんて習っていない少年は、男を殺してしまいました。 血で濡れた顔を拭い、少年は血溜まりを見つめています。 男の顔は安らかでした。 少年は剣を引きずりながら歩き始めます。 自分の唯一の居場所へ、ただただ真っ直ぐに。 「この世の中は腐っている」 しかしこの世に住んでいるのは人間であり、この世を作っているのも人間です。 そうして、乱れた心がこの世を作り、乱世と言われてしまう程秩序に欠け、人は争いを続けます。例え大地が汚れ、たくさんの生命を失ったとしても。 世界じゅうが手をつないで、平和に暮らす事は出来ないのでしょうか。難しい事です。 それでも、少しでも、たった一つでも、絶つ命を減らす為には人の心が変わってゆかねばなりません。 力だけが、全てではないのだから。 [次へ#] [戻る] |