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Marco×Ace
5
ここは、滅多に人の寄り付かないシェーリン岬とその一帯。
ここにくる予定などなかったエースは、岬の名前もジンクスも何も知らない。
マルコの言葉がショックで、思わず店を飛び出してからエースは人のいないこの場所で一人座っていた。
目の前には穏やかな波を湛えた広大な海が広がるばかり。
それでも、エースの心は少しずつ落ち着いていく気がした。
しかし、心は落ち着けど、寒さがきつくなっていくのを肌で感じる。
「さみぃ…」
気温はすでにマイナスをとうに過ぎているのだ。
いくら炎人間でもこの寒さは耐えられない。
時折自分の体を炎にかえて暖めるが、当然暖まらない。
それほど、この場所は寒かった。
しかし、エースは頑としてそこを動かない。
戻って、思わず逃げた理由を知られるのも恥ずかしいし、何より、子供っぽいと思われたくなかった。
マルコは白ひげ海賊団でも相当な古株で、人生経験もエースよりはるかに豊富だ。
白ひげの右腕と言われていることからも、そのことは容易にはかり知れる。
エースは別にゲイではない。
それなのに白ひげの船に乗って、はじめてマルコを見たその時から、どうしてか自分の心から離れなかった。
自然とマルコに惹き付けられる自分がいた。
始まりがそんな風だったのだから、マルコと付き合えたのも奇跡に近いとエースは思っていた。
だからこそ、そんな子供っぽい理由で困らせて、年上の恋人に愛想をつかれたくなかった。
それくらい、エースにとって、大切な人なのだ。
そんな想いからエースは一心に海を見つめ、そこから動こうとしない。
「マルコ…」
膝の間に顔を埋めて呟く。
しかしその声は誰にも届かず、冷たく吹き荒ぶ風に乗って消えて行く。
もうすぐ日が沈みそうだ。
太陽がだんだんと海に隠れるのが目に写る。
やがて、夜が来る。
夜になれば、もっとここは寒くなるだろう。
一瞬、マルコが来てくれることを期待する。
そして、そんな考えを振り払うかのように頭を振った。
ーーあんな風に言っちまったんだ。来るわけねぇだろ。
心の中で一人呟く。
体が冷えてしょうがない。
出来るだけ温まるようにと体を縮こませる。
寒さなんか平気だと言って上着を羽織らずに来た過去の自分を呪いたい。
今はいいが、夜になれば寒さに意識を保ってはいられなくなるだろう。
そんなことを考えているうちにも、時間は過ぎ、無情にも気温が下がって行く。
これもエースには知ったことではなかったが、今日は、普段に比べ、冷え込むのだ。
だんだんと意識が朦朧としてくる気がする。
だめだ、と気を強く持とうとするが、体に力が入らない。
体が傾くのを感じる。
瞼が落ちてくる。
ふと、マルコの声が聞こえてくる気がした。
『エース』
その記憶を最後に、エースは意識を手放した。


マルコは、上空から眼下に広がる街を見下ろす。
街といっても、バジルがいた街からはかなり移動したはずだから、そろそろ目当ての岬についてもおかしくない頃である。
そして、ここに来て思うが、バジルのいた街はかなりの都会だったらしい。
眼下に広がるのは街といえど、小規模の集落のようなものだ。
いくら上空とはいえ、かなりの寒さであるのだから、むしろよくここで生活できるものである。
マルコは下を向いていた顔を上げて、前方を見やる。
ここは島だから、当然岬なんてものはたくさんある。
だから、どこがなんという岬なのか、一介の海賊などに見分けはつかないが、唯一、シェーリン岬には、大きな岩があるらしい。
それが見分けるポイントだと言っていた。
ーーというか、そもそも他の岬は普通のやつにゃ入れねぇような危険なところなんだ。普通じゃないにしてもな。いくら火拳のエースといえど、そう簡単に行けるような場所じゃねぇ。
バジルの言葉を思い出す。
ーー違ぇな。
マルコは、その言葉を否定するように、心の中で思う。
エースは、危険など顧み無いところがある。
それよりも、己の信念に従って体が動く。
幼い頃は、弟だと言う麦わらのルフィを守るために、一人、海賊の前に立ちはだかったなどと自慢げに話していたが、正直なところ自慢話ではない。
それでも、弟のことを話すエースの顔は生き生きとしていて、嬉しそうで、それでいてとても優しげだった。
普段のエースからは見られないような、一人の兄の姿がそこにはあった。
だからこそ、その話には不安を覚えたものの、マルコはやたらに水を差すことはしなかった。
そして、そんなエースだからこそ、いくらでも危険な岬になど行けると思っていた。
水に落ちなければ、マルコまでは行かずとも相当の戦闘力があるのだから、そう簡単に死にはしない。

大きく翼をはためかせ、マルコは羽ばたいていく。
ふと、少し前を見通すと、岩肌の見える、大きな崖が見えた。
ーーあれだな。
見えた途端、気持ちが早まる。
大きく旋回して、マルコは岬を見て回る。
ーーいた。
エースは、シェーリン岬からそう遠くない、小さな、今にも崩れてしまいそうな場所にいた。
寒いのか、体を縮めているのが見て取れる。
そのとき、グラリ、とエースの体が傾いた。
「!?」
驚いて全速力でエースの元へ羽ばたく。
マルコは船医者だ。
ある程度のことは見れば診断できるし、治療もできる。
エースの体が傾いて倒れそうになったとき、マルコは瞬時に察した。
体が冷えすぎたのだ。
いくら炎の人間といえど、この寒さに耐えられるはずがないのだ。
今にも倒れそうなエースに向かって、思わず声を上げる。
「エース!」
そんなマルコの声も届かず、エースは、岬の淵に倒れこんだ。
ーークソッ
ようやくエースの元について、地に足をつける。
慌てて体に触れれば、凍えるほどに冷えきっている。
顔も顔面蒼白で、良い状態であるとは言えない。
それより、一刻も早く温めないと命に関わってくる。
それと同時に、マルコは不思議に思う。
何故、こんな状態になるまでここにい続けたのか。
いくら炎であると言っても、自分の限度は分かっているはずである。
限界だと感じたならば、自分でそこを動くはずであろう。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
マルコはバジルから貰った上着を掛けてエースを持ち上げた。
すぐさま不死鳥に姿を変え、後ろも振り返らず岬を飛び立つ。
そのとき、眩しいほどの太陽の光が辺りを照らした。
夕日だ。
バジルの言っていた言葉が蘇る。
ーーたまぁに、綺麗な夕日が見れるんでさぁ。あれが見れたら相当な運の持ち主だ。なにせ、あれを見たものの病は瞬時に治る、なんていう噂もあるくらいだしな。
マルコは医者であるがゆえか、基本的に噂話は好きではない。
しかし、この時ばかりは信じてみたいと思った。
「エース、死ぬなよい…」
岬にたどり着くよりも速く羽ばたいて、マルコは白ひげの船を目指す。


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あきゅろす。
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