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Marco×Ace
エース編
また君と会えたなら


夢を見ることがある。
それは、悲しくて、だけどどこか幸せな夢。
オレは何処か、海の上に浮かぶ船に乗っていて、永遠に広がる海を見つめている。其処は、オレしかいない空間。
ふと、気配を感じて首をひねると、其処には、誰かが立っていた。
それ≠ヘ、決してオレに姿を見せない。だけど、オレは知っている。この人は、オレの、大切な人。顔が見たくて、声が聞きたくて、思わず足を一歩踏み出すと、それ≠ヘ、だめだ、と言うように首を振る。
姿が見えないのに、そんなこと分かるわけない、と思うのだけど。如何してか、オレには言いたいことが分かる気がした。オレはその人に従って、足を止める。すると、それ≠ヘまるでいい子だ、とでも言うかのように、ふ、と微笑んだ気がして、声を上げようと口を開く。
だけど、オレの声は突然襲いかかる波にさらわれてかき消され…



目覚ましの音で目覚める。
もう、何度目だろう、この夢を見るのは。そうして、止め処なく溢れる涙を拭うのだ。
なんとなく、昔から、誰かを探しているような、そんな気分に取り憑かれることがあった。それは決まってこんな夢を見る日で。

カーテンを開ければ、溢れんばかりの日差しが部屋を照らす。オレは軽く頭を振ってキッチンへと続く扉を開けた。
じゅわじゅわと美味しそうな音を立てて焼ける卵と、トーストをそのままに、コーヒーメーカーをセットして、熱々のコーヒーを淹れる。出来上がったそれをテーブルに置くと、自らも座って、トーストに手を伸ばす。
たっぷりとバターの塗られたそれは、香ばしい香りを残して、エースの胃の中へと消えていった。
コーヒーを飲み干し、使った食器を片付けると、出かけるための用意をする。
特に用はないが、こんな晴れた日には外に出たくなる。適当に其処らをうろつくのも良いだろう。
ふと、先ほど見た夢が頭を掠める。姿も見えない相手を思い出すと、何故かひどく安心する。
エースは、シャツのボタンを止めると、貴重品を持って外に出た。
そういえば、新しいズボンが欲しかった、と思い出して、駅に足を向ける。エースのお気に入りの店は、電車で少し行った先にあった。
切符を買って電車に乗り込む。中はガラガラで、人はほとんどいない。エースは空いていた席に座ると、深く息を吐き出した。目を閉じて頭を窓に凭れさせる。今朝の夢が、今日はやけに頭にこびりついていた。まるで、何かがあるのだ、と暗示するかのように。
車掌のアナウンスが目的の駅が近づいてきたことを知らせる。エースは閉じていた目を開けると、立ち上がろうと体に力をいれる。
電車が止まると同時に、扉の開く音がして、人がまばらに入ってくる。その間を抜けるとエースは駅に降りた。そのまま、目的の店まで歩いていく。駅とは目と鼻の先だ。
何があるか、と麗らかな春の陽気に誘われて軽い足取りで道を行く。いくら昼間とはいえど、人は多い。人の絶えない道をエースは縫うように進んでいった。



それ≠ヘ突然だった。
なんとなく春の陽気に誘われて家を出て、思いついて馴染みの店に行って、服を選ぶ。それは、今回が初めてなんかではなくて。
なんとなく。
そう、なんとなくそうしよう、と思っただけだったのに。



別段広くはないこの店は、しかし、品揃えが良く、また、デザインもいい。何度かいくうちに、店主とも打ち解け、今では、何かあればこの店に行くようになっていた。
其処の店主は元々は縫製の仕事をしていたらしく、ズボンの裾がほつれたり、セーターの紐が引っかかって伸びてしまった時など、相談すれば、簡単に直してくれる。いつも笑顔なその店主はサッチといい、いつのまにか、ただの店主と客ではなく、友達のような関係になっていた。
チリンチリンと音がして新しい客が入ってきた。
エースはサッチに相談しようと彼のいる方へ体を向けた、その時。
「おう、マルコ!」

…………え?
……マルコ?

彼の口から発せられた言葉にひどく動揺した。
おそらく、今入ってきた客は彼の顔見知りだったのだろう。何か、親しげに話し出している。
聞くつもりはないのに、耳に流れ込んでくる会話。その端々に聞こえる、よい、と言う独特な喋り方。

……おれは、あの人を知っている。

根拠もなくそう思った。気づかないうちに固まっていた体を無理やり動かして、声のする方を見る。
其処には、サッチの隣で話している、特徴的な髪型をしたスーツ姿の男性がいた。胸がざわざわと騒いだ。持っていた商品をその場にあったラックに適当に引っ掛け、歩いていく。
何を言おうか、とか、突然話しかけられたって困るだけだ、とか。普段ならそんなことを考えてしまう頭も今日ばかりは働いてくれない。惹きつけられるようにその人の元へ歩いて行くエースの足が、ラックに当たってこつん、と音を立てる。
その音に気づいた男性客が、エースを振り返ったのがわかった。エースも彼が振り向いたのを見て、足を止める。

……あぁ。オレは、この人を、知っている。
初めて見る人。なのに、どこか初めて会ったような気がしない。それは、遠い遠い昔の記憶。

隣でサッチが驚いているのが分かったけど、そんなものは目に入らなかった。
口から溢れるように言葉が出た。

「マル、コ………」

男性は驚いたように目を見開く。だけど、其処に嫌悪の表情は宿っていない。

「エー…ス…?」

眠たげに細められたスカイブルー色の目、綺麗な金色の髪。少し低い、優しい声。
名など教えていないのに、それどころか初対面の筈なのに、その男性は、オレの名を呟いた。その瞬間、背中にピリッと電流が駆け抜ける気がした。
知ってる。知ってる。
…オレは、この人を知っている。
全身がそう叫んでいるかのように体が震えた。それはまるで、魂の叫び。

ーー見つけた。貴方はオレの、運命。

思わず、彼に抱きついた。そうして、一言、囁いた。

「ずっと、貴方を探していた」

彼が目を見開く。その目には、やっぱり、嫌悪なんて浮かんでいなくて。其処にあるのは、愛情の篭った優しげな目。急に抱きついたオレに何も言わずに抱き返してくれた彼は、オレの耳に口元を近づけて、オレと同じように、囁いた。

「俺もだ。……エース。」

その声は、彼の体温は、広く雄大な碧い海を偲ばせた。


fin


こんなことあったら素敵だな、って
まぁ二人が幸せなら、婆やはそれだけでいいのですがね?

マルコ視点のは、書けたら書きたいと思っておりますゆえ、お待ちを

2019/8/29


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あきゅろす。
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