(おや、)
ふいに視界が揺れる感覚。
脳で予想した衝撃など遠く及ばない程度には、目の前の少女の言葉は僕に大打撃を与えたようだ。
“私の気持ちなんて分からないくせに”
愛しい愛しい僕のアリスは、ガッコウから帰ってきた時、ひどく青白い顔をしていた。
だから調子が悪いのかと訪ねたのだけれど、アリスはそれだけ言って自室の隅で縮こまってしまった。
またガッコウで何かあったのだろうか。
冷静に考える頭の隅で、知らない誰かがひどく叫ぶ。
君が望むからだ!
君が無知を望むから、僕は何も知らない!知ることができない!
君が無感情を望むから、僕は泣きわめくこともできない!
君が望めば、僕はいくらだって君の気持ちを察するさ!
けれど君はそんなことを望んではいないんだ!
君は僕が君の心を知ることを望んでいないし、ましてや僕が人間になって君の隣で生きることだって望んでない!
君は僕に、どこまでも都合のいい存在でいてほしいんだ!
いつまでも何も知らず、君の後ろについていくことだけを望んでいるんだ!!
「アリス、」
息とも声ともつかないものが、自分の口から出た。
沈む夕日に照らされた彼女の背中が、びくりと震えたのが見てとれる。
「望みを言ってごらん」
なんにもこわいことなんてないよ
ぼくらのありす、ぼくのありす
きみがのぞむなら
ぼくはなんだってかなえてあげる
そっと振り返った彼女は、赤い目をして笑った。
「そばにいて、」
わたしのチェシャ猫。
神に弾丸
君には薔薇を
(きみがのぞむなら、ぼくは)
(なんて、)(ああ、)
(ほんとうにのぞんでいるのは)
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