dust 戯れ。 私には大嫌いな人間が何人もいるけど、その中でも一番嫌いな人間が今、私の前に立っている。 これは、ゲームだから。 純朴な貧乏人に誘拐ともとれる発言をさせればクリア、そんな簡単なゲーム。 私の部屋にある監視カメラをみている警備員がすっ飛んできて貧乏人を捕まえて、その後どうなるかなんて知らないけれど。 この男で、もう何十人目かしら。 「貴男を、お慕いしております」 私が汚らわしい嘘を口にすると、花屋の三男であるその男は、ボサボサな黒髪を後ろ手に掻きながら 貧乏人ならではの濁りない瞳で私を見た。 「どうか私を連れ出して下さいませんか」 もう嫌なんです、こんな生活は。 そう言って泣いてみせれば、男はまた微かに笑う。 私も心の中だけで微かに笑った。 男を見上げれば、純真な目と合う。 私の願いを叶えようとする目。 全ての人間は善人で、自分の家と等しく苦労していると思っている目。 笑えば済むと思ってるのかしら。いえ、事実そうだったんでしょう。 早く答えを頂戴。どうせ貴男もイエスでしょう? あぁつまらない、つまらない! このゲームも飽きたわね。 今度は何で遊ぼうかしら、そんなことを考えていると男が言った。 「お戯れを、御嬢様」 俺にそんな大それた事できませんよ。 にこりと笑ったその顔は、まさかまさかそんなはず 貧乏人の 戯れ。 戯れていたのは私?それとも――― |