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夢で逢えたら(短編)
恋人達の『くりすます』4
眞魔国の空に星が輝き始めた頃、城内は華やかに賑わっていた。

「皆、ゆーちゃんに喜んでもらいたいのね」
「何か、こんなに豪華なパーティーにしてもらって、ちょっと気がひけちゃうな」
鞠花にそう言われ、有利は照れたような笑みを浮かべている。

「僕なんて、クリスマスをこんな風に大勢で過ごす事自体、初めてだよ。いやぁ、これでサンタでも来てくれればもっとそれらしいのにねー」
眼鏡の縁を軽く押さえて、猊下はのんびりとした口調で慌ただしく動き回る使用人達を眺めていた。
しかし、その顔はどこか少年らしさが垣間見える。村田健として、この雰囲気を楽しんでいるのだろう。

パーティーとはいえ、各領地から貴族を呼んだ訳ではない。
「普段城で忙しく国の為に働いている者達皆に息抜きをしてもらいたい」という有利の提案で、兵士達も交えての催しをしているのだ。

「とはいえ、俺達が居たらあんまり息抜きにもならないかな・・・」
少し不安げに、有利はコンラッドに声をかけた。
「そんなことありませんよ、陛下。どの者達も貴方や猊下、マリカと同じ空間に居れる事に感激しているし、貴方の提案に感謝していますよ」
普通の貴族や高貴な地位の者なら考えもつかない事だ、とにこやかに笑っている。名付け親のその言葉に、有利は安心した表情を見せる。


大声で笑いながら酒を呑みご馳走を頬張る『城内で働く皆様』を遠巻きに眺める有利達。
立食パーティーでありながらも雛壇に席を設けられた双黒三人は、自分達の地位を十分理解していた。

雛壇を設けたのはギュンターの計らいだが、だからこそ喚ばれた皆が息抜き出来るのだろう、自分達が宴の中心に居て動き回れば、他の者達は畏縮し気も休まらないだろうと考えていた。

それでも、彼等の元には順々に挨拶をしに来る者達が後を絶たず、皆、口を揃えて感謝の意を伝えてきてくれている。
程好い距離感を保ちつつ、互いに楽しみを共有出来る空間がそこに広がっていた。

「なんだなんだー?もう出来上がってる野郎共がいっぱいだな」
ハスキーな声が笑いながら近付いてくる。
「ヨザ!お疲れ様、お帰りなさい!」
鞠花はその場にいる誰よりも早く、恋人に労いの言葉をかけた。

一週間振りのその愛らしい姿に、数時間にも渡る上司への任務報告の疲れも、一気に吹き飛ぶ勢いだ。

「ただいま戻りました、っつってもだいぶ前に戻ってたんだけどねえ。閣下ってばグリ江をなかなか解放してくれないからー」
彼らしく、イタズラな笑みを見せる。
その背後から、「妙な言い回しをするな」と低い威厳のある声が響いた。

「グウェンダル、もう仕事は終わったのか?」
異父兄に話しかけると、彼は不機嫌そうにチラリと有利を見た。

「・・・代行署名待ちの書類なら、山のように残っているがな」
有利だけでは期限に追い付かず、書類が束になって自分の元へ回ってきたのだ。

「まあまあ、渋谷の仕事が遅いのは今に始まった事じゃなし、とにかく今は仕事は忘れて楽しく過ごそうよ。『可愛らしいモノ』を見て息抜きするために、仕事を置いて来たんだろ、フォンヴォルテール卿?」
猊下の言葉に、グウェンダルは気まずそうに何度か咳払いした。

こうして『城内で働く重鎮の皆様』も集まり、宴は華やかさを更に増していった。

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あきゅろす。
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