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夢で逢えたら(短編)
恋人達の『くりすます』1
重たい雪雲が低い空を覆う中、ようやくヨザックは王都に辿り着いた。
急な任務を命じられ、一週間城を離れていたのだ。

現在彼は、双黒の姫君であり自身の恋人でもある鞠花の、護衛役兼指南役というポジションを与えられている。
そのため今までの様に長期の海外任務は休止しており、時折国内の、それもニ〜三日で済む短期間の活動だけに終始していた。

ただ、それでも彼の直属の上司であるグウェンダルからの評価は非常に高く、緊急を要する情報入手などの際には、徴収がかかる事がある。
今回もそうだった。グウェンダルにとっては一番信頼出来る部下、彼にしか頼めない『特殊な』情報を必要としていたため、一週間王都を離れる事を強いたのだ。

「あー、やっと帰って来れたぜ」

早く戻りたかったために睡眠もそこそこに馬を走らせてきたので、血盟城がぼんやりと見える距離に来た頃にはドッと疲れが出た。
しかし、まだまだ若い魔族で尚且つ兵士とあらば、食事をとれば疲れもあっという間に回復する。

ヨザックは馬から降りると、しばらくして近場の食堂に入った。

入手した情報を早く持ち帰りたい気持ちはあるが、城に戻れば報告が済むまで食事をする機会は与えられそうにない。かといって、大事な報告の間中腹の虫を鳴かせ続ける訳にもいかない。

ヨザックは軽く自分に言い訳をすると、奥の席へと狭い店内を進んだ。

そこで、彼は不思議な会話を耳にする。

「今日は『敬愛の日』だから、やっぱ早く帰らねえとなぁ」
「俺も今日は早く仕事終わらせるぜ。朝のうちに、子供の遊び相手するって女房に約束しちまったからな」

仕事の休憩中なのか、二人組の男達が談笑している。かと思えば、今度は別の席の女性客がまた『敬愛の日』について盛り上がっていた。

「ねえ、何か贈り物用意した?」
「ううん、してないよ。いきなり昨日の今日で、何を贈ればいいかわかんないし」
「だよねえ。あ、でも今日はちょっとだけ夕飯を豪華にするつもりだよ。感謝の意味を込めてね」
「うちもそうするんだ。たまには旦那を労ってあげないとね、ちょっと気恥ずかしい感じだけど」

愉しそうに話している姿がそこら中に溢れている。何やら皆、『今日』という日に特別な感情を抱いているらしい。


 何だ、『敬愛の日』・・・?んー、どっかで聞いたような気が・・・っあ!!思い出した!!


ヨザックは注文を聞きにきた店員に『ある物』を持ってくるよう頼んだ。

しばらくして店員が飲み物と共に、それを運んできた。差し出された物を受け取ると、ヨザックは飲み物を口にしながら、テーブルの上に頼んだ物をザッと広げる。

「これだ、これ。えー・・・なになに?
『眞魔国駐箚特命全権大使・マリカ閣下に突撃取材!』・・・冴えない題だねぇ」
ポツリと呟きつつ読んでいるのは、昨日付けの眞魔国日報。

自身が城を発つ翌日に鞠花に取材が入っていたのを、護衛役である彼は記憶していた。

食事をしながら、特集記事を目で追っていく。

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