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夢で逢えたら(短編)
真夜中のティー・パーティーA
「帰ったぁ!?」
セクシーなハスキーボイスが頓狂な声を上げる。

「あ、ああ、ついさっき・・・な、コンラッド!?」
答えに困ってしまったのか、有利は慌ててコンラッドに話を振った。
「ああ。少し前に俺達も眞王廟から戻ったところだ。急な申し出だったから間に合わなかったな、ヨザック」
爽やかに答えるコンラッドの言葉がちゃんと彼に届いているのか、ヨザックは軽い放心状態だ。


 帰ったってどういう事だ?そんな・・・夫婦喧嘩の末に「実家に帰らせてもらいます!」じゃあるまいし、そう簡単に帰るような場所じゃねえだろ!?
 どうやって追いかけりゃいいん――・・・


「・・・そうか、追いかけて欲しくねえんだな・・・・・・」
ぽつり呟くと、ヨザックは手にしていた紙袋を有利に突き出した。

「あ、あのさヨザック・・・」
「ああ、これですか」
「え?いや、そうじゃな・・・」
「街に出たついでに買ってきたんですが・・・いや、良かったら食べて下さい。いらなかったら捨てちまっていいですから」
早口に言い終えると、受け取るか否か迷っている有利の手に強引に紙袋を持たせた。

「それじゃあ、失礼します・・・・・・」
全くらしくないヨザックの背中を見送ると、有利は紙袋を持て余すようにコンラッドに掲げてみせた。

「俺そんなに土産にせっついてるように見えた?」
「いや、そんなことは。あれはアイツの強がりですよ陛下、残念ながらそれは貴方宛てじゃないだろうな」
有利から紙袋を受け取ると、コンラッドは大きな執務机の上に置いた。



―――・・・
自室に戻るなり、ヨザックはベッドへダイビングした。華奢なスプリングがギシギシと悲鳴を上げる。

「帰るのは――卑怯だろ・・・・・・」 
言葉は責めているが、落ち込みの方が強く怒りは感じられない。


 同じ世界にいるなら、馬でも船でも乗ってどこまででも追いかけるさ。けど、どうやって俺にそこまで行けってんだ?


「追いかけさせてもくんねーか」
自嘲気味に笑うと、鞠花との喧嘩を思い返した。

『いい加減にしろよ!オレと居るのがそんなにつまんねえなら、コンラッドと陛下のとこに行きゃあいいだろ!』

『何よそれ、わけわかんない!私はヨザックの所に来たくて来てるのよ。それとも、来ちゃいけなかったの?』

『・・・オレの所に来ようがコンラッドや陛下の所に行こうが、全部アンタが決める事だ。止めるも強要するも、オレにはそんな権利ねえんだから、好きにすりゃあいい』

『わかった、もういい!いいわよ、じゃあ好きにさせてもらうからっ!お望み通りゆーちゃんとコンラッドと、懐かし話に花を咲かせてくるからっ』


 ひどい事言ったな・・・今更遅いけど。
 そこまで腹立てる程のことじゃなかっただろ、何であんなにムキになったんだ、オレは・・・・・・。


自分が何に腹を立てたか気付かぬほど幼稚ではない。
ヨザックは嫉妬したのだ、自分の知らない世界に。
そして、『地球』の話を共感出来る有利とコンラッドにも、嫉妬した。主にコンラッドにだが。

ここにはない便利な物に溢れている別世界、初めはその話を聞くのも楽しかった。
だがやがて、言い知れぬ不安を感じるようになっていった。

もしかしたら帰りたいんじゃないか――

ここには人が中で動く箱も、遠く離れた者と話が出来る手段も、朝から晩まで休むことなく開いてる店も無い。
ここしか知らなければ不便を感じることも無いが、『それ以上』を知れば物足りなくなるのが人の性だ。

本当は、帰りたいんじゃないのか。オレにとって唯一のこの世界は、マリカにとってはただの仮住いなんじゃないのか。

自分の知らない世界を懐かしむ姿に、必要ない存在だと言われているようで苦しかった。
共感出来ないことに疎外感さえ感じた。
とうとう我慢しきれずに、初めて本気で怒鳴ってしまった。


 このままずっと帰らないって事は・・・さすがにないだろう。なら、気が済んだら戻ってくるのか?ちょっとした里帰り気分か?
 そもそもマリカの『ちょっと』ってどれくらいだよ、こっちと向こうじゃ時間の流れが違うって聞いたけど・・・・・・。


鞠花にしたら『ちょっと』でも、体感時間が果てしなく違うのだから、下手をすればヨザックはかなり長い時間取り残されるだろう。
喧嘩別れで何年も会えないだなんて、シャレにならない。

「このまま置いてくなんて、卑怯だろ・・・・・・」
言葉の色ほど恨めしさはなく、その声は絶望に打ちひしがれていた。

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あきゅろす。
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