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夢で逢えたら(短編)
やきもちC
「何が『仕事』よ!綺麗な女とお酒飲むのがヨザの仕事だっていうの!?だとしたら、随分とおいしい仕事ね・・・・・・、えっ、きゃっ!?」
ボスンッ、と背中がベッドで跳ねる。眼前にあるのは、ヨザックの険しい表情だ。

「・・・何の話か知らないが、オレの事勘違いしてんのは確からしいな」
片足立て膝の状態で、手首と肩を押さえ込み鞠花に覆い被さっている。シーツは二人の間で絡まっていた。

「ちょ、ちょっと離してっ!」
「一体何があったんです?」
「な、何って・・・・・・」
「確かにここんとこ忙しくはしてたが、今日まで別にそんな態度してなかったじゃねーか。オレが寝てる間に、一体何があったってんだ?」
触れている箇所が熱を持ち始めた。力加減をしているのだろう、痛くはない。けれど、自分を射抜くブルーの瞳、その視線が痛い。


 なん、で・・・そんな瞳で見るのよ・・・・・・!


嘘を吐いてるとは思えない、真っ直ぐな視線。何よりもそれが彼の想いの証だと、鞠花自身が一番よく知っている。

「・・・うっ・・・ひっ・・・・・・、っ・・・・・・」
何が真実か、どう解釈していいか分からずにいると、勝手に涙が溢れてきた。
「お、おいっ!?どうした、痛かったですか!?悪い、加減はしてたつもりだったんですが・・・・・・」
慌てて鞠花を押さえていた手を離し、彼女の額にかかる漆黒の髪を丁寧に撫で上げる。そのままそっと手を滑らせ、目尻からスゥーっと流れる涙を掬い取った。

「違っ・・・痛いんじゃない・・・・・・」
ヨザックの優し過ぎる仕草に、涙は余計に増していく。
「・・・じゃあ何で泣いてんですか。なあマリカ、本当にどうしたんだ?オレが悪いんなら謝りたいから、ちゃんと話してくれよ」
息がかかる。困った顔で、けれどその目に嘘はない。

「・・・聞いちゃったの・・・・・・」
「何をです?」
「ヨザが・・・綺麗な女性と町の酒場にいるの、見たって・・・・・・」
「・・・誰からそんな・・・・・・」
なにやら思い当たるのか、ヨザックは少し複雑な表情を浮かべた。

「・・・本当、なの・・・・・・?」
恋人の微妙な変化を敏感に感じ取り、鞠花の瞳からまた涙が溢れる。
「ああいや、別にやましい事なんかねえけど・・・ちょ、待てって泣かないでー?ね、姫様っ?」
一部肯定された事で、鞠花の表情がみるみる曇っていく。それを見ると、ヨザックはがっくりと肩を落とした。観念したように深く溜め息をつく。

「わかった・・・話しますよ。仕事の内容話すのはちょっとアレなんだが、しゃぁねえか。どうせ解決したしな・・・・・・」
「仕事・・・・・・?解決って・・・・・・」
軽く頭を上げて小さく呟くと、ヨザックは身体を起こして鞠花の隣に胡座をかいた。きちんと話を聞くため、鞠花も向かい合うようにベッドに座る。

「姫様、『美人局』ってわかります?」
「え・・・確かゆすりの一種・・・だったよね?女の人を使って、男を騙すってアレ?」

「そうです。うまい事言われてたぶらかされた男は、女の後ろに付いてる組織に金を巻き上げられる。騙される男も悪いと言えば悪いんだけどねー。
最近、城下で美人局が横行してたんすよ。被害者はみーんな兵士、それなりの安定収入があるからそこに目を付けられた」
おおっぴらに出来る内容ではないのか、セクシーなハスキーボイスはやや音量をしぼっている。

「被害者の兵士達は、上官にばらすと脅され泣く泣く金を渡してきた。まさに泣き寝入りだ。だが、立て続けに何人も騙されりゃあ、口を割る兵士も出てきます。その結果、手口が明るみに出たって訳です」
「それで・・・ヨザが囮になって・・・・・・?」
だとしたら、立ち聞きした目撃情報もつじつまが合う。

「ご名答ー。閣下から内偵を命じられまして、この数日間、網を張ってたんだ」
「過去形って事は、もう解決したの?」
「ああ。昨日の夜中に元締めと接触して、その場で全員捕まったよ。今頃、地下牢にでも閉じ込められてんじゃねえか?
ま、オレはあくまでも命令通り奴等との『繋がり』を作っただけだから、後の事はわかんねえけど」

被害者が兵士ばかりというのもあって、あまり公には出来ないのだと言う。だからこそグウェンダルは、少数精鋭で解決しようと優秀な手駒を使ったのだ。
「それじゃ、一緒に酒場にいた綺麗な女性って・・・美人局の犯人って事?」
「誰に見られてたかは知らねえけど、身に覚えがあるのはあの女だけだな」
何かを思い出すようにふっと目を閉じたヨザックの少し柔らかな笑みが、鞠花の胸をチクリと刺激する。


 わかってる。ヨザックにとってこれは仕事で、命令で、特に深い意味なんてないって。でも、なんだろ・・・・・・。嫌だ・・・・・・。


いくら仕事や命令であっても、自分以外の女と時間を共有してほしくない・・・・・・。
我が儘だとはわかっていても、いい気がしないのは確かだ。
鞠花は自分の胸の内に沸々と芽生える『嫉妬心』に、その身を熱く灼かれる。

「ヨザは・・・囮になったのよね・・・・・・?」
「うん?」
「じゃ、じゃあ、その女性に騙される兵士を演じて・・・その・・・・・・」
言い難いのか、語尾が小さくなってしまう。その様子から、一味の女と『関係を持った』のかと問いたい鞠花の気持ちは、手に取るように伝わった。

「・・・なんもしてねえよ。いくら命令でも、騙されたふりして女抱くような真似、するわけないでしょう。そんなまどろっこしい仕掛けしなくても、尻尾掴む方法はいくらでもあるさ」
あっさり胸の内を見破られ気まずそうにしている鞠花の顔を覗き込むと、ヨザックは喉を鳴らして笑った。

少々居心地が悪い鞠花は、視線を落として質問を投げ掛ける。

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