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夢のまにまに(連載)
ロイヤルカップルの攻防
その頃、ヨザックは自室で小さな凶器を手にしていた。

太い彼の指につままれた妖しく光る鋭い尖端のソレを、ヨザックは器用に動かし続けている。
軽く鼻歌を歌いながら、肌触りの良い布地にプスリ、プスリとソレを刺す。
要するに、縫い物の最中なのだ。

今手掛けているのは、愛しい恋人の変装用の衣装。
一針一針丁寧に運針するその姿は、さながら夜なべして手袋編んでくれてる母さんのようだ。
実際は、大男が背中丸めて胡座をかいて、ベッドの上でお針子作業なのだが。

鞠花がギュンターの授業を受けている間のフリータイムをいつもの様に満喫していたところ、突然自室の扉を乱暴にノックする音がした。
この時間帯、こんな風に部屋を訪れる者といったら、他には浮かばない。
「空いてるぜー」

手を止める事なくヨザックは声をかけた。
すると、一人の兵士が扉を開けて軽く礼をした後淡々と用件を述べた。

「フォンウ゛ォルテール卿がお呼びです」
「おー、ご苦労さん」

やっぱりな、といった表情を浮かべつつも相変わらず作業をしながら答えるヨザックに、使いの兵士は「急ぎの用件なんだぞ!」と言わんばかりの視線を送った。

敬愛する上司の呼び出しに即座に応えないわけがない。
だが、彼は大慌てで部屋を飛び出すような無様な行動をとるような無能な兵士ではなかった。

ヨザックはまだ手を動かしながらも、その瞳だけは入口に立つ兵士を見据える。

鋭い、獣の瞳。
その眼光の威力に恐れをなした兵士は、慌てて部屋を後にした。

「やれやれ、せっかくあとちょっとで仕上がるってのに・・・今度は何の任務だってんだあ?」
太く逞しい腕がぐるぐると宙で円を描く。
そうやって身体を解すと、彼はグウェンダルの元へ向かった。




―――・・・
「俺が・・・鞠花さんに命令するって?おい村田、いくら何でもそんな危険な事、鞠花さんにさせられるわけねーだろ!」

有利は目を見開いて友人である村田建に食って掛かった。

「君が鞠花さんを気にかける気持ちはよくわかるけど、彼女の本来の役割を君が認めなきゃ何も進まないだろ、渋谷」

「っ・・・それでも、何も状況が掴めてないのに、俺の命令で鞠花さんを危険に晒すわけにはいかない!」
そう言った後、有利は自分が先程グウェンダルに対して、無茶な要望を突き付けた事を思い出した。

突然静かになった王に対し、ウ゛ォルフラムは落ち着いた声で冷静に有利を諌める。

「そうだ、まだ何も掴めていないんだ。そもそも被害者だって、相手が魔族だとわかって助けを求めてきたわけではないだろう。命からがら逃げた先に、たまたま我が国の軍船が居合わせただけの事。確かに奴等の卑劣な行いは聞いてるだけでも不愉快だ、だがなユーリ!我々はあくまでこの件に関しては部外者なんだ!それをお前が望む通りに介入したら、どうなる?外交問題にまで発展しかねない・・・下手をすれば戦争だぞ!!・・・それがお前の好む『平和』だとでも言うのか?」

部屋がしんと静まり返る。
グウェンダルもギュンターも自分達の考えそのものをウ゛ォルフラムに代弁され、不謹慎ながら彼の成長振りに感心していた。

だが、このまま傍観している訳にもいかない。
グウェンダルは眉間に皺を寄せて静かに話を切り出した。

「ウ゛ォルフラムの言った事は正論だ。今回はたまたま救助をしたまでであって、本来ならば人間共の問題に我々が口を挟むべきではない。だが・・・」

「わかってる、わかってるって!それでもさ・・・非人道的な事がまかり通ってるの知ってて、黙って見てろっての!?そんなの俺、耐えらんねーよ・・・」
グウェンダルの言葉を遮って、有利は自らの意見を主張した。
漆黒の瞳が、怒りと哀しみに染まっている。

そのあまりに真っ直ぐな視線を受けて、グウェンダルは盛大に溜め息をついた。
「・・・話は最後まで聞け。さっきも言った通り今回の問題は我々が干渉するべきではない。だが、全てを把握していない状態で頭ごなしに否定するわけにもいかん。もしかすると、我が国にまで害を及ぼすかもしれんからな。とにかく、乙女市に関しての諸々の情報を得てからでないと何の策も練れん」

「グウェン・・・」
有利は、グウェンダルの思わぬ発言に言葉が出てこない。
だが、その漆黒の瞳は本来の色を取り戻していた。

「まったく、我が国の王は呆れる程のお人好しだ。しかしこの問題が陛下の憂いとなるのなら、解消せねばなるまい」
長い足を組み替えると、またグウェンダルは溜め息をついた。

「お人好しなのは陛下だけじゃないだろ。なあ、グウェン?」
コンラッドが、爽やか笑みを浮かべて長兄に声をかけた。
バツが悪そうに、グウェンダルは軽く咳払いをすると、大きく息を吸って扉に向かって声を荒げる。

「おいっ!いつまでそこで突っ立っているつもりだ!!」
すると、ガチャっと扉が開き鮮やかなオレンジ色が飛び込んできた。

「あっれー、バレてましたぁ?」
ハスキーボイスの持ち主がニヤニヤと笑いながら近寄ってくる。

「ヨザック!」
有利と鞠花が同時に彼の名を呼んだ。

これで面子は揃ったな、と猊下は眼鏡の縁を軽く指で押さえた。
だが、それはあくまで心の中の呟き。

それを読み取る者は、ここには誰もいなかった。

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あきゅろす。
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