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夢のまにまに(連載)
二人の想い@
その頃ヨザックは自室で悶々としていた。

兵舎は別にあるのだが、鞠花の護衛役に就いた事であまり姫の部屋から遠くても便が悪いからと、城内の一室を与えられた。

兵舎とは格段の差があるとはいえ、他の重鎮達とは違い質素で狭い部屋。
テーブルの上にお気に入りの酒を広げ、ヨザックは寂しく一人酒の最中だった。

着替えるのも億劫で、軍服の上着を固い椅子の背にかけ中に着ているシャツのボタンを胸まで外し、グラスを片手にベッドに腰を下ろしている。

「眠れねえ、くそっ!」
先程大広間でツェリに言われた言葉が、頭の中でグルグル回っていた。

「オレは逃げてんのか・・・・・・?よくわかんねーよ、自分の気持ちに正直になるなんて・・・わかんねえよ」
グラスの酒を飲み干し、ボスンとそのままベッドに倒れこむ。
すると、扉の前で人の気配を感じた。


 ・・・誰だ、こんな時間に。


ベッドサイドに置いていた剣を手にして、そっと扉の前に立つ。

「誰かいるのか・・・・・・?」
小さな声で無機質な扉に話しかけた。

「ヨザック、私よ。入ってもいい?」
思いもよらない人物の声に、ヨザックの思考回路はショート寸前。
「え、えっ!姫様!?」
慌ててガチャっと扉を開けると、そこには麗しの双黒の姫君の姿が。
しかも、ガウンの下は薄い水色のネグリジェ。

ヨザックは空のグラスを手から落としてしまった。
ガコンッと硬い音が床に響く。

「何やってんすか!?と、とにかく中に入って!!」

こんなところ、誰かに見られでもしたらマズイ!
そう思って急いで鞠花を部屋に入れた。

ヨザックの慌てぶりを気にも留めず鞠花はベッドに座って部屋の中を見回している。

「へえー、殺風景だけどなかなかいい部屋ね」
「そうですか?確かに兵舎よりは立派な部屋ですが、質素で狭い所ですよ」

「そうなの?私の寮の部屋よかはるかに広いけどねー」

無防備にくつろぐ鞠花の姿に、部屋の話で盛り上がっている場合ではないとヨザックは我にかえった。

ベッドに座る鞠花の目の前に立ち、彼女を問い詰める。
「どうしてこんな時間にオレの部屋に来たんですか?それもそんな恰好で・・・夜中でも兵士が巡回してるんだ、もし出くわしたらどうするつもりだったんですか」

その視線があまりにも真剣だったので、鞠花もまた漆黒の瞳で彼を見据える。

「ありがたい事に、私は闇に溶け込む事が出来るのよねー。この魔力さえ使えば、誰にも見られずに簡単にここに来る事も出来るわ」
そう、闇を操る魔力を行使してきたのだ。

「・・・わっかんねえ!どうして、そうまでして今この時間にオレに会いに来る必要があるんですか!?」
左手でオレンジの髪をかき上げ、ついキツイ言い方をしてしまう。

「どうしてって?ねえ、私が来た事に怒ってるの?それとも、他の誰かに見られたら困るから?・・・今の私の姿を、他の人に見られたくなかったから?」
真っ直ぐに見つめてくる漆黒の瞳は、気丈なようで、少しうろたえているようにも見える。

「・・・全部です。貴女は、ご自分がどのような立場なのかわかってない」
「そうかもしれない・・・でも、自分の気持ちに正直になるって決めたの。もう、嘘はつかないって」

上から彼女を見つめていると、その大きな胸の谷間がくっきりとわかる。

下着を着けずに男の部屋に来る事が自分の気持ちに正直になることなのか。
そう思うと、ヨザックは自分の胸の内を抑えきれなくなった。

「何をどう正直にどうしてほしいんだ?オレの部屋じゃなくて他の男・・・隊長の部屋でも良かったんじゃあないですか?」
座っていた鞠花の肩を軽く押して、その反動でベッドに横たわった姫に簡単に馬乗りになる。

「私、そんなに軽い女じゃないわよ。自分の気持ちに嘘をつきたくないから、あなたに会いに来たんじゃない!」

「お姫様の戯れに付き合う気はありませんよ。さ、オレは今力を緩めて貴女でも容易に振りほどける状態にしてる。このままオレに襲われたくなかったら、とっとと部屋に戻った方がいい」
そう言い終えた時には、もう自分の下の姫君はその瞳に涙を浮かべていた。

「戯れ・・・なんかじゃない、好きなの・・・私は、ヨザックの事・・・」
「言うな!!」
自分を制するためなのか、ただ感情的になってしまっただけなのか、思わず怒鳴り声をあげてしまう。

「・・・オレにどうしろっていうんですか?オレと貴女とじゃあ、あまりにも立場が違いすぎる。確かに貴女を守ると心に決めたが、それはあくまでも主従関係だ」
大きな瞳から涙が零れる。気まずくて顔を背けた。

「本当にそれだけなの・・・・・・?私は、あなたにとってただの『姫』でしかないの?一人の男として、私の事を見てはくれないの・・・・・・?」

「オレには、貴女を幸せにすることなんて出来やしない。どうあがいたって所詮は一介の兵士だ、それも人間の血が混じってる。貴女にはふさわしくない」

嘘をつく事がこんなにも苦しいだなんて・・・・・・。
ヨザックは初めてその痛みを感じていた。

できる事なら、本音をぶつけてこのまま抱きたい。
その思いを必死に抑えていた。


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