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夢のまにまに(連載)
スタート
コンコン、と扉を叩く音に、鞠花は敏感に反応する。


もしヨザックだったら、どんな顔をして会えばいいんだろうか・・・・・・。

そう思うと身体が熱くなった。


 違うでしょ、私!ちゃんと演技するって決めたんだから・・・・・・!


「今、開けるわね」
平然とした声を作り扉を開けると、そこには見慣れない格好をした護衛役が立っている。
「・・・えっと、あれ?ヨザック?」
思わず名を尋ねてしまった。

オレンジの髪、ブルーの瞳。
紛れもなくグリエ・ヨザックなのだが、服装が――

「う・・・わぁっ!軍服!すごい、ヤダ、カッコイイ!!」

いくら興奮しているとはいえ、鞠花は『姫』らしからぬ馬鹿っぽい言い方をしてしまった。

「そうっすかあ?オレ、嫌いなんですよねー軍服。どうも、窮屈で性に合わねえ」
首元がきついのか、グイっと力を入れて隙間をつくっている。

「軍人が軍服嫌いって言ったら、どうするのよ。他の皆も着てるじゃない」
「軍人っつっても、オレはあくまでも諜報員ですからねえ。軍服着てちゃあ、仕事にならんでしょ?」
言われてみれば、確かにそうだ。

「でも、何か新鮮・・・似合ってるよ?」
愛しい姫にそう言われ、気まずさは鳴りを潜めた。

「やーだ、姫様ってばあ!グリ江に着こなせない服なんてないわよー」
本人的にはそうらしい。

「そうね、それでこそ眞魔国随一の敏腕諜報員!」
肩を竦めて笑い合う。共に、抱える想いは同じだった。


 良かった・・・普通に話ができて――・・・





―――・・・
若干薄めの緑色の軍服姿のヨザックに連れられて、式場へと向かう。

鞠花は、ごく自然にヨザックの左腕に軽く手を回した。
自分が姫である事を実感する瞬間だ。

「模範的エスコート。紳士よ、ヨザック」
「それはそれは、姫様も淑女らしい身のこなしですよ?」

「だめよ私、だってこんな豪奢なドレスのままうたた寝しちゃうんだもん。目が覚めたらヨザックはいないし、ドレスの裾はよれちゃってるし・・・」

言い終えると、苦笑いを浮かべた。
心に決めた通り、『私、寝てたのよ』アピールをする。

「あ、ああ・・・姫が寝ちまったんで、起こすのも悪いかと思って部屋を出たんです。時間がきたら、呼びに来ようかと」
ぎこちなく言い訳をした。


 気付いてなかったのか・・・ぐっすり寝てたもんな。
 うあぁーっ!いたたまれねえーっ!!


心の中で葛藤しながらも、事実は決して口にしない。
大切な姫を傷付けたくないから、嫌われたくないから。



各々の気持ちを隠したまま、長い通りを歩いて行く。

徐々に近付いてくる管楽器の演奏に、鞠花はだんだん緊張してきた。
その様子に感づいたヨザックは、扉の前まで辿り着くといったん立ち止まり、鞠花の背中を軽くポンと叩くとニヤッと笑った。

「さあて姫様、着きましたよー。この扉を開けたら貴女はその瞬間からこの国の要人だ、覚悟はいいですね?」
挑発的な言い方、けれど、優しさが満ち溢れている。

「あったりまえじゃない。女はいつでも戦闘態勢なのよ?」
特にそんな経験はないが、読みかけのスパイ小説で女スパイが言ってた台詞を頂戴した。

「それじゃあ、こっからはお手並み拝見といきますか」
右の口角をキュッと上げる。

二人の兵士が大きな扉を開けた。その先には大人数の魔族達。


 皆が期待してる。私は選ばれた者・・・・・・。
 でも貴方の思うようにはさせない、自分の運命は自分で切り開くわ、眞王陛下?


高いヒールで一歩前へと踏み出した。
長い長いゲームの始まりだ。


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