夢のまにまに(連載) ヨザックVSコンラッド 眞王廟に着くと、そのまま長い廊下を渡り奥へと通された。 重たい扉を二人の巫女が開く。 ひんやりとした空気が流れる不思議な空間。 その中心に、長い髪を床に垂らした少女がいた。 この人がウルリーケ・・・・・・?どう見ても少女にしか見えないよ?魔族って、ほんとに年齢わかんないなあ・・・・・・。 前もって言賜巫女であるウルリーケの事を聞いていたので、彼女の長命に関しても多少の前知識はあった。 しかし鞠花は背中の丸まった老女を想像していたので、その風貌に驚かされる。 「姫様、お会いできて光栄です。帰還の儀式はもう整っておりますが、準備はよろしいでしょうか」 柔らかい物腰の『見た目少女』が鞠花に声をかけた。 「あ、ああハイ。で、私は何をどうすればいいんでしょうか?」 「こちらの光の輪の中に入られましたら、元の世界に戻れます」 ウルリーケは自身の足元、床に出来た一見水たまりのような『光溜まり』を指した。 「この中に・・・飛び込めばいいわけね?もし落ちちゃって、そのままこの中に閉じ込められるとか、ない?」 やや怯え気味の鞠花に、ウルリーケがあどけない笑みを見せる。 「ご心配なさらずとも、眞王陛下の御力があれば大丈夫でございます。微力ながら私もお手伝いいたしますので」 その『眞王陛下』が心配の種なんですが・・・・・・。 口には出さずに心で呟く。 「それじゃあ、行きます・・・この、輪の中に飛び込めばいいのね?」 恐る恐る片足を輪の中に入れると、強靭な力が鞠花の足首を掴み中へと引きずり込んだ。 「きゃああぁぁぁ・・・」 叫び声が吹き抜けの空間によくこだました。 何とも哀れだ。 「ああっ、姫様!!どうかご無事でーーっ!!!」 ギュンターが消え始めた光の輪に向かって叫ぶ。 この感覚、『来た時』と同じだ。 これで・・・帰れるんだ、帰っちゃうんだ私――・・・ ―――・・・ 鞠花の帰還を確認して、男達はぞろぞろと帰途についた。 城に戻り馬から降りたヨザックに、コンラッドが詰め寄る。 「ヨザ、お前どういうつもりだ?」 「どういうって、何がだよ」 幼馴染みの強い物言いに、怯むことなく平然と答える。 「あんな風にマリカを乱暴に連れ去る事が、お前の任務だとでも言うのか!?」 腹を立てたりはしない。 だからと言って、コンラッドの発言に屈する気もない。 「お前、なんか勘違いしてねえか?姫の護衛はオレの役目。ちゃあんと役割ってのがあんだからあ、邪魔すんなよな?」 喧嘩をしたいわけではないが、この問題ははっきりさせておかなければいけない。 「邪魔をしているわけじゃない・・・俺は自分の役割を心得ている。陛下を護衛するのが俺の任務だ、だが・・・」 「姫様の事も守りたいってかあ?」 まわりくどい言い方に、ヨザックはつい苛立ってしまった。 「俺は、マリカの事を・・・」 コンラッドの言葉を、ヨザックは途中で遮る。 「聞きたかねえな」 「・・・・・・」 「お前が姫をどう思ってようが、オレには関係ねえ。だけど、この任務譲る気はねーからな」 「・・・ああ、わかった。わかってる」 案外冷静だ。 まるで、ヨザックの気持ちをわかっていたかのように。 「どうしようがお前の勝手だけど、くれぐれも邪魔はしないで下さいよ、隊長?」 わざと皮肉交じりにそう言って、コンラッドの脇を通り過ぎた。 ヨザックはすれ違い様に小さな声で呟く。 絶対渡さねえ―― 幼馴染みの言葉に、コンラッドは腕を組み溜め息をついた。 [*前へ] [戻る] |