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夢のまにまに(連載)
成功を掴み取れ!Q
黒い水面に揺れる舟に小気味よく跳び移ると、ヨザックは素早く客船に繋がれているロープを剣で切った。
「ヨザ、腕大丈夫!?」
心配そうにヨザックに尋ねる鞠花を見て、コンラッドは「ああ・・・」と小さく呟く。

「どうりで血の匂いがすると思ったら・・・お前だったんだな、ヨザック」
鞠花が羽織っていたジャケットがどうにも血生臭いと思っていたが、見たところ彼女自身に怪我はないようだし、下手に不安を煽るのも嫌だったので黙っていたのだ。

「大丈夫ですよ姫様、それよりコンラッド!いつまでそうやってるつもりだっ」
狭い舟を大股で進むと、鞠花の肩を優しく抱きつつ、コンラッドと彼女の間に割って入った。

「随分手酷くやられたな、大丈夫か?」
小さな灯りに照らされたヨザックの負傷の跡を見て、コンラッドは軽く言葉をかける。
共に命がけで戦争を生き抜いた仲、致命傷でない事はわかっていた。

「あーあー大丈夫だ。んな珍しいもん見るような目で見んなよ、たまにはグリ江だって怪我くらいするわよー」
依然として不安げに見つめる鞠花を気にかけて、あえて何でもないように答える。
「本当に大丈夫なの?まだ完全に止まってないでしょ・・・」
言いながら鞠花は外套を脱ぎ、紺色のジャケットをも脱ぐ。
そして、血の匂いがするジャケットを細長く畳むと、ヨザックの傷口を塞ぐようにきつく巻き付けた。
「・・・っ」
寒さと出血でだいぶ感覚は麻痺していたが、傷口に強い刺激を与えられ顔を歪める。

「っと、これでしばらくは大丈夫かな」
「ありがとうございます。さ、早く漕ぎださねえと。行くぜ、コンラッド」
手荷物を足元に置きしっかりと腰を据えると、ヨザックはもう一人分用意されていたオールを手に取った。

男二人が舟を漕ぎ始めてしばらくすると、かなり小さくなった客船の船尾にうっすらと人影が見えた。
「あっ、あそこ!二人とも、ねえあそこに誰か・・・こっちを見てるわよ!?」
鞠花は慌てて後方のヨザックとコンラッドに目撃情報を伝える。

「あー、ありゃカヴァルケードの・・・って事は、ちゃんとこっちの依頼は通じてたってわけだ」
したり顔のヨザックに、カラクリが解せない鞠花は怪訝な表情を見せた。
「どういう事なの?」
救助が来るとは計画を詰めていた段階で聞いていたが、どこからどのように『誰』が来るかは聞いていなかった。

「すみません、隠してた訳じゃないんだ。あの時はまだ確証が得なかったから君には細かく伝えなかったが、ちょうど二人が宿を出てしばらくしてから正確な情報が入ってきたんだよ」
「情報って?」
コンラッドの回答に質問を繰り返す鞠花に、今度は選手交替とヨザックが答える。

「拐われた少女達の中で一番多かったのが、カヴァルケード出身者だったんだ。あの街からは比較的近いからな。だから何人かの『知り合い』を通じて情報を流した、勿論内密にですがね。話の通じる人物に伝わってくれる事を祈ってたんだが、うまくいったようだな」
ニヤッと笑うと、ヨザックは船尾に立つ人影を指差した。

「あれ、はカヴァルケードの人・・・・・・?」
「ヒスクライフ氏ですよ」
コンラッドは望遠鏡を鞠花に手渡す。
「ありがと・・・ん?あの人、縄梯子もロープも両方とも海に棄てたわよ!?」

「彼と、カヴァルケードについてはギュンターから話を聞いてますよね?彼とその娘、現在王位継承者の王女はユーリと親交が深くてね。今回は直接的にではないけど、動いてもらうように伝達していたんだ。彼にだけわかるよう、『ミツエモンの部下・カクノシン』としてね」
未だ望遠鏡を覗いている鞠花に合わせ、コンラッドは舟を漕ぐ速度を落とした。そこに、ヨザックが話を継ぎ足す。

「大事な国民が非合法に拐われてんだ、話の通じる人物なら国をあげて助けに出るだろ?そうすりゃ支持率だって上がるってなもんだ。人数、地位、立地・・・全ての条件にしっくりはまるのがカヴァルケード、ヒスクライフだったってわけ。無論、こっちも『魔族』として情報を流した訳じゃあねえが、あの人物ならうちらの内情も汲み取れるだけの器はあるって思ったんでね。予想通り、オレ達があの船に居た痕跡も消してくれたみたいだな」

「それじゃあ、被害者の少女達はカヴァルケードに保護されたの?」
「あくまでも直接的なやり取りはしてねえから『知り合い』を通じての書面でしかわからねえが、全面的にあの国が引き受けてくれるそうですよ。まぁ、信用出来る筋だから、問題はないでしょう。国に帰ったら、陛下を通じてヒスクライフ氏に直接確認をとればいい。何にせよ、もう姫様が心痛める懸案は解決したって事です」

ヨザックの言う『知り合い』とは、彼と同じ仕事をしている者や情報屋の事なのだろう。
鞠花はそれらについても色々聞きたい気がしたが、一度安堵の表情を浮かべるとそれきり口をつぐんだ。


 眞魔国へ帰れば、日常に戻ればまたそれから聞けばいい・・・・・・。
 疲れたよ、これ以上急く必要もないわよね・・・・・・。


手の平に収まるまで小さくなった客船を眺め、鞠花はまるで礼でもするかのように静かに頭を下げた。

夜の闇はまだまだ明けない。時間はいやというほどゆっくりと流れている。

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あきゅろす。
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