夢のまにまに(連載) 心を抉るのは言葉の刃B ・・・『大切な人』、か。俺は・・・自分の気持ちにさえ気付かない位、現実から目を背けて生きていたのか・・・・・・? 鞠花の泊まっている客室と同じフロアにある客室でコンラッドは自問自答していた。 双黒の姫君を押し倒し、無我夢中で彼女を奪おうとしたのはほんの数刻前の事。 結局、鞠花の強い意志を前に何も出来なかった。 それどころか、見ないように気付かないように蓋をしてきた自分の深層心理を暴かれ、結果的には大きな過ちを犯さずにすんだのだ。 【私は私よ。あなたの失った『大切な人』じゃない】 ちゃんと見ているつもりだった。美しく気高く優しく愛らしい・・・そんな君を愛してる『つもり』だったんだ。 けれど、この想いは君の言う通り『身代わり』だったのかも知れない。 君の苦しみも理解せずに、ただ生きてさえいてくれればいいと、籠の中の鳥で居てほしいとさえ思っていた・・・・・・。 「傷付く所を見たくなかったんだ、ましてや危険な目に遭うような事を・・・」 ベッドの上で仰向けになり、右腕で両目を覆った。 【私の向こう側に『誰』を見てるの?その人の影を私に重ねて、失う事を恐れてるの?】 視界を閉じるとそこには闇が広がる。 『見えない』のはどんな感覚なのかと、部屋の中を目を閉じて徘徊するなんて事を人知れず試していたのはもう昔の事。 全くの別人だ、そんな事はわかってた。 けれど『魂』と『運命』に翻弄されてるマリカを見ていると、胸が苦しかったんだ。 そして、君のように潔く『運命』を受け入れるマリカを見ていたら急に怖くなった、また失うんじゃないかって思ったんだ・・・・・・。 「今でもやっぱり後悔してるよ、ジュリア。いつまでも君を引きずってるらしいな、俺は・・・」 ゆっくり身体を起こすと、サイドテーブルに置いていた寝酒を口にした。 あの気持ちが恋や愛だったかは、もう今となっては自分でもわからない。 あの頃の俺は自分の『血』のために、同じく血で苦しむ仲間の名誉のために戦う事しか頭になかった。 それでも君といると幸せな気持ちになれた、同じ夢を心に誓った。 少なくともあの頃の俺にとっては、ジュリア・・・君は何よりも大切な存在だったんだ。 「自分で望んでたんだ・・・」 空のグラスをテーブルに戻すと、またベッドに寝転がる。 【もう苦しまないで。自分を解放してあげて】 鞠花の言葉がコンラッドの頭の中で廻る。 君を失った事と、多くの仲間を部下を死なせた事。全て自分のせいだと背負い込んで、その苦しみでがんじがらめになる事で自分を戒めて・・・そうして自己を保ってきた。 逃れたいと思った事なんてなかったが、本当は助けて欲しかったのかも知れないな・・・・・・。 「もう、全てを君のせいにしないよ。俺は俺のために生きる・・・いいだろ、ジュリア――」 そっと傷の残る眉に触れた。 静かに目を閉じると、懐かしい想い出が蘇る。 ―――・・・ 「デカイ月だな、見てるかマリカ」 もうすっかり夜も更けて、愛しい恋人はおそらくは今頃夢の中だろう。 信じてえから護衛を頼んだんだぜ、コンラッド。 これ以上苦しむなよ、そんなの誰も望んじゃいねえよ・・・・・・。 陽が昇り船が港に着けば、二人と合流する。 夜になれば本格的に任務を遂行しなければならない。 マリカはマリカだ、二日も二人で過ごせば自分に頑固なお前でもいい加減その事に気付いたろ。 「気付いてもらわねえと困るんだけどさー」 大きな月を見つめるブルーの瞳には、後悔の色はない。 信じてる―― その思いを自分だけは裏切ってはならないと、ヨザックは強く噛み締めていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |