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夢のまにまに(連載)
夜更けの鑑識


 もう寝てるだろうな、起こすのも可哀想だし隣に部屋をとるか。
 かーっ、無駄遣いも甚だしいね、バカバカしい・・・・・・。


そうは思いながらも、宿に入ると宿主にもう一つ部屋を借りる旨を告げた。

この宿は任務中の旅先での一泊にも比較的よく使う所なので、彼が女装して現れようと普段の姿で現れようと、宿主は特に気にする様子もなく干渉もしてこない。
宿賃も前払いなので、宿主からすれば、彼(彼女)は上客の一人なのだろう。

先に借りた部屋の、右隣の部屋に入った。
外から戻ったので、暖炉に火が入っていなくてもそこそこ暖かく感じる。

部屋の空気を入れ替えようと固い窓を軽々と開けると、視界の左側にヒラヒラと揺れる布地が映った。

「・・・この寒い中、窓開けて寝てんのか?」
一瞬、彼の動きが止まった。
「まさかっ!?」
狭い部屋を走り抜け、急いで隣の部屋のドアに手をかける。

彼の思った通り、鍵は開いていた。

「おいおい・・・どこに行ったってんだー?」
オレンジの髪をガシガシと乱暴にかき乱し、チッと舌打ちして部屋に戻ると、外套を羽織ってまた宿を後にした。





宿主曰く「お客さん以外、どなたも出入りされてません」だそうだ。
となれば、窓から抜け出したとしか思えない。


 捜す必要がない、といえばない。
 このまま知らんふりして、部屋で朝まで寝てたって構やしない・・・・・・。


本当にそうしようかとも思ったが、忽然と姿を消した『少年』の怯えた様子を思い出すと、やはり宿に戻る気にはなれない。

宿の裏に回り窓の開いた部屋の下に立って、地面に自分よりはるかに小さい足跡が残っているのに気付く。

「飛び降りた時に、片足が土に食い込んだんだな・・・・・・」
そこは細い路地、左右どちらの通りに出たかが問題だ。
とりあえず彼は、足跡のつま先が示す方向へ進んでみた。

「・・・なんだ?」
路地から通りに出た少しの所に、ボタンが落ちている。
『落ちている』というよりは『半分埋まっている』といった具合だが。

金色のボタンが顔を出しているすぐ右側に、一本の短い線が引かれていた。

彼は太く逞しい腕を組み、何事か考えるように静かに左右にひらけた通りの左の方へ歩き出す。
しばらく歩くと、また地面に金色のボタンを見つけた。

先程と同じように、ボタンの横には短い線。

「・・・目印ってわけか」

あと2つ同じ方法で目印を見つけ、忽然と消えた人物が北の丘に向かったのがはっきりとわかった。

大急ぎで来た道を戻り、馬を手に入れオレンジの髪を弾ませながら丘へと向かう。
月が遠く、空が少し白んできた。


 どうせ、国に帰るためには丘を越えなきゃ駄目なんだ。ついでだ、ついで!


「・・・っとに、面倒なガキだ!」
右の口角を少し上げて、馬を走らせる。


もうじき、夜明けだ。

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