Lily
飲み物〜佑介〜
「なぁ」
部屋に客がいない時を見計らって、俺はちょうど部屋の前を通りかかったクラスの女子に声をかけた。
「はっ、はい!?」
何故かびっくりして、俺を見た。
「いや、ちょっと喉渇いたから、飲み物買ってきたいんだけど…」
なんで、そんな驚く?
「あっ、私買って来ようか?」
「いや、いいよ。ちょっと、外の空気吸いたいし」
なんてったって、この部屋はこもっていて気持ちが悪い。
「なるほど。たぶん、指名入ってない時なら平気だと思うよ。今入ってないし」
「じゃあ、孝太に『指名入ったら電話して』って伝えといて」
「うん。わかった」
返事を聞くと、俺は教室を出た。
廊下に出ると、長蛇の列が出来上がっていたことを知った。
こんなに人気あったのか。
並んでいる人達を横眼で見ながら歩いていると、話し声が聞こえてきた。
「何あれ!?超格好良くない!?」
「あれがホスト!?」
「ああいう人がいっぱいいるの!?」
「ヤバイでしょ!!」
「レベル高っ!!」
「ってか、本物のホストっぽくない…?」
……。
なんとなく忙しくなりそうな気がした。もしかしたら、外の空気を吸っている暇なんてないかもしれない。
少し、飲み物買って来てもらえばよかったと思った。視線が痛い。すれ違う人は必ず、俺のほうを振り返るから、だんだん眉間に皺がよってきた。
そのため、怖いのか俺が通ろうとするところは人が除け、道が開けた。
通りやすっ。
深田さんのクラスの前を通ると、このクラスもすごく繁盛しているらしく、行列ができていた。だけど、客が女子ばかりの俺のクラスと違って、このクラスは男子も女子も同じくらい来ているみたいだ。
まぁ、彼女男からも女からも人気だしな…。
あっ。
そういえば…。
今思えば、朝会った時、彼女はメイド服を着ていなかったから、俺はまだ一度も彼女のメイド服を見ていない。
通りながら教室の中を覗いたが、彼女は見当たらなかった。
自販機のところに来ると、先客がいた。
ゲッ。
あの後ろ姿、もしかして…。
……。
やっぱり…。
「よぉ。お前のクラス何してるの?」
俺は隣に並んで、宮島に話しかけた。
「……。」
シカトかよ…。
ガコン。
飲み物が落ちた音がしたと思うと、宮島がしゃがむ気配がした。そして、俺の存在を無視するかのように、何も言わずにスリッパの音をさせてその場を離れていった。
愛想悪っ。
人のこと言えたもんじゃないけど。
買うものを決め、金を入れたその時、スリッパの音が止んだ。
「お前、学校辞めてそっちの道進めよ」
そんな言葉が聞こえてきたかと思うと、またスリッパの音が聞こえ始めた。
あのやろ…。
俺はお茶を買い、教室に向かって歩き出した。
深田さんのクラスの前を通る時、彼女がいないか、また中の様子を見ながら歩いた。
あっ。
いた。
だけど…。
あれは、誰…?
しゃがんでいる彼女の隣には内海がいるのは普通だが、その2人の前に1人の男性が立っている。私服を着ているところから、高校生ではないということがわかる。
ん?
あの子供は…?
男性で見えなかったが、男の子と女の子もいた。彼女の服をずっと握っている。
弟と妹…?
あれ…?
下っていたっけ…?
確か、お姉さんが1人に、お兄さんが2人だったような…。
あっ。
そうか。
あの人はお兄さんか。
すると、彼女のお兄さんと思われる人が、男の子と女の子の手を握って、彼女と内海に見送られながら出てきた。こっちを向いてきて目が合ってしまったので、思わずお辞儀をしてしまった。
何やってんだ俺。
だけど、彼女のお兄さんも、子供2人に手を引っ張られながら、お辞儀を返してくれた。
驚いた顔をしていたのは、当然のことだろう。向こうとしては、俺のことなど何も知らないのだから。
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