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Lily
恋〜大樹〜
今日は俺の家で練習がてら、遊ぶことになった。
久しぶりの練習なのだが、こいつ等は『経費節減』と言って、スタジオではなく、俺の家に来た。別にこっちはガソリン代が浮くからいいけど、こんなに頻繁に来るのなら部屋代を払って欲しい。


「ここの音ってこうでいいんだっけ?」
「んー」
涼也がいろいろ話しかけているが、俺は自分の練習に夢中で、相槌を打つだけで適当に流していた。この部屋では俺と涼也が練習し、冬夜と炎がそれぞれ別の部屋で練習している。
「次のライブって来週の木曜だっけ?」
「おぅ」
「もうすぐ炎の誕生日だよな」
「あー」

そうだっけ…?
あいつの誕生日なんか知らねぇなぁ…。

「そういえば、この前のMCの時の子わかったよ」
「へぇー」

ここってどうなって…。
……。

「なんだって?」
「だから、MCの時の子がわかったって…」
俺は涼也の言葉を最後まで聞かずに立ち上がり、冬夜がいる部屋に向かった。


「冬夜!!」
俺は順番に部屋のドアを開け、冬夜がいる部屋を探した。慌てていたため、自分の家なのに思わずいるはずのないトイレのドアなども開けてしまった。
バンッという大きな音をさせながら3つめの部屋のドアを開けると、中にいた冬夜は思っきり不快な顔をした。そして、無言でヘッドフォンを外し、俺を見た。
「MCの時の子がわかった!!」
冬夜は無言のままだが、両目を見開いた。この反応は確実に興味を示している。
「って涼也が…」
「そうそう。俺の従兄弟の友達だった」
涼也を呼ぼうと顔を廊下に向けようとしたら、俺のすぐ後ろにいたらしい。後ろから涼也が言った。
「‘従兄弟の友達’って結構近っ」
俺は素直に驚いた。
「何々、みんな騒いでどうしたの?」

うざい奴来たー…。

俺達の声を聞きつけたらしく、炎も寄ってきた。
ドアのところで話すのも微妙なので、俺達は冬夜のいる部屋に入った。


「へぇー!何でわかったの?」
炎が身を乗り出して聞いてくる。
面倒だったが炎がうるさかったので、仕方がないからそれまでの話を一通り話してあげた。
「なんか、この前従兄弟の家に言ったら、ちょうどその子が遊びに来てて、向こうが俺に気付いて謝ってくれた」
「ほぉー。よくお前のこと気付いたな。冬夜ならと…
「名前は?」
俺の言葉を遮って、冬夜が聞く。

こいつ、そんなに気になるのか。

「あぁ。聞いた。従兄弟にだけど。確か‘深田’さんっていったはず」

……。
‘深田’…?

「下は?」
「下の名前…。珍しい名前だったことだけは覚えてるんだけど…あっ。そうだ。メール見たらわかる」

『珍しい名前』…?
‘深田’で…?
おぃおぃ…。
それってもしかして…。

涼也が携帯を取り出そうとしていたが、俺はそれを止めた。
「もしかして……、‘深田’って…、‘深田楪’…?」
「そう!それ!大樹あの子知ってんのかよ」

やっぱり!

驚いている涼也のこの顔を殴ってやりたい。
「知ってるも何も、お前等も知ってるだろ!!緤の妹だよ!!」
「緤の!?」
3人全員が驚く。
「そう。緤の。それも俺が、緤が『妹とライブ行きたい』っていうからチケットあげた」
「えっ…、ちょっと待て。‘緤’って‘深田緤’だよな…?」
涼也が聞いてきた。
まだ、話が飲み込めないらしい。
「他に緤なんて名前の奴いないだろ」
「だって、緤、妹いたの?」
炎も話が飲み込めていなかったらしい。こいつも疑問符を浮かべながら聞いてきた。

知らなかったのか。

「いるよ。超美人。俺達の中じゃ知らない奴がいないほど有名人」
3人は一瞬悩むような顔を見せたが、すぐにひらめいたような顔を見せた。俺は、3人が『俺達』という意味を理解したことを悟った。
「でも、あいつから妹の話なんか一度も聞いたことないんだけど」
冬夜がそう言った。

やっぱり知らなかったのか。
まぁ、考えられる理由はただ一つだよな…。

「それはたぶん、あいつがシスコンだから。妹をあまり知られたくないんだよ」
「なるほど」
涼也と炎が納得する。
「だから、『妹のアドレス教えてくれ』って言っても、男には教えてくれない。女にはたまに教えてたけどな」
「本当、シスコンだな」
そう言って、涼也がニヤける。

あっ。

「ってか、そういえば俺、楪のアドレス知ってんだ。ほら」
俺は携帯を取り出し、‘深田楪’と書いてある電話帳の画面を3人に見せた。
「『男には教えてくれない』ってさっき言ったじゃん!!」
炎が叫ぶ。
「俺直接聞いたから」
「直接?!」
「まぁ、直接聞いて教えてもらったのも、俺だけだ…ぐぇっ」
いきなり何かで顔を押されたと思ったら、冬夜の手だった。
「自慢はいいよ」
冬夜そう言いながら立ち上がる。
「アドレス知ってるなら、『またいつでもライブ来て』って伝えといて」
冬夜はそう言うと、部屋を出て行った。

……。

残った俺達は冬夜が出て行った後、顔を見合わせてニヤついた。

あいつ、相当楪のこと気になってるな…。


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あきゅろす。
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