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Lily
先輩〜佑介〜
今日、俺はまた彼女をみっちゃんの家に遊びに来ないか誘った。正確に言うと、みっちゃんに『誘って来い』と言われた。何故、俺はみっちゃんに命令されてそのまま動いてしまったのか、自分でも謎だった。
もしかしたら、みっちゃんに会わせたくないと思いながらも、心の隅でみっちゃんのおかげで彼女と遊べるということに、喜びを感じているのかもしれない。


「ねぇ、またみっちゃんの家で遊ばない?みっちゃんが『遊ぼう』って言ってきてるんだけど」
「マジで?遊ぶ、遊ぶ」
彼女は嬉しそうに言った。
その顔を見ると、俺の顔も自然に綻んだ。
「じゃあ、今週の土日だけど、また同じ時間でいい?」
「OK〜。また駅まで迎え来てくれるの?」
迎えに行きたい気持ちはすごくある。だけど、もし迷惑だと思われたらと考えてしまうと、すごく怖い。
俺は、賭けに出た。
「どっちがいい?」

これで、彼女が何て言うか…。

彼女はニヤけて言った。
「よろしく」

本当に?
それって迎えをってことだよな?

「わかった」
俺も思わずニヤけてしまった。


そして、土曜日。
駅に迎えに行ったが、今日も彼女は周りとは違うオーラを放っていたから、すぐに見付けることができた。
「お勤め御苦労」
彼女はそう言って、俺のもとに寄って来た。
「『お勤め』かよ。今日も乗る?」
「あぁ、今日は自分の自転車で行こうと思う。また警察に捕まって、遅れたら悪いし」
「そうだな」
「うん。じゃぁ、ちょっと自転車取って来るから、待ってて」
「わかった」
俺がそう言うと、彼女は自転車を取りに行った。

乗せたかったな…。
遅れることなんか気にしなくていいのに。

でも、俺が遅れても気にしないのは、俺の場合あいつ等と付き合いが長いからであって、彼女からしてみれば遅れたら申し訳ないと思うのだと思った。あと、俺の後に乗るというのも迷惑をかけると思ったからだと思う。
「ごめん。お待たせ」
「大丈夫。よし、行くか」
俺達は自転車をこぎだした。
「遊ぶの2回目かー。なんか、もっと遊んだことありそうな気分」
「この前は泊まったからじゃね?」
「そうだ。泊まったんだ。あたし初めて会った人の家で何図々しいことしたんだろ」
そう言う彼女は落ち込んでいる。
「まぁ、みっちゃんが喜んでたから別に平気でしょ」
「そうかなぁ?」
彼女は苦笑している。
その様子を少し眺めて前を向くと、見たことがありそうな人影が数人見えた。

ゲッ…。
あれって…。

「うぉーい!!佑介ー!!」

やっぱり…。

叫んできた声でわかった。
声の持ち主は同じ中学だった先輩で、無駄にテンションが高くて前やたらと絡まれた。はっきり言って、俺はあの先輩に興味なかったから、あの先輩が卒業後何しているのか全く知らない。
「なんかテンション高いね。あの人」
彼女が前方で俺に向かってブンブン手を振っている人を見ながら言った。
「あんま気にしなくていいよ」
俺はそう言うが、あの先輩が大きな声でいろいろ叫んでくるから、気にしないわけにいかない。
「女に興味なかったくせにデートかよー!!」
案の定、先輩は彼女が俺の女だと勘違いした。
だけど関わると、これこそ警察よりも遅れそうだから、俺は無視することにする。
「おぃ、あいつ知り合い?」
「おぅ。中学のときの後輩だぜ」
先輩が、一緒にいる人達と話しているのが聞こえる。あそこにいる人達は、先輩しか知らない。
「女のほうも?」
「いや、女は知らねーよ」
「へーぇ」
やっぱり、彼女に興味を持ったみたいだ。
俺は早く道を曲がりたくなった。

目的の曲がり角まで、あと100メートル…。

「おぃ、呼び止めろよ」
「わかった。おーぃ!!ゆーすけー!!ちょっと待てよー!!」

あと、50メートル…。

だんだんこぐ速さが速くなってきている。彼女はちゃんと着いて来られているのか?
それでも、俺は彼女を確かめないで走り続けた。
あと、10メートル…。
「おぉーい!!シカトかよー!!」

5メートル…。
曲がった!!

俺は彼女が付いて来られているか確かめるために、後ろを振り返った。

よかった…。

俺が後ろを見ると、彼女は調度曲がって来たところだった。
安堵して、彼女が隣に来るまでスピードを落とす。
「おーい!!」
まだ声は聞こえているが、あの人達の視界に俺達は入っていないだろう。
「いいの?すごい呼んでるけど」
「いいよ、いいよ。気にしたら負けだよ」
「あはは。負けなんだ」
彼女が笑う。さっきの緊張も、今の彼女の笑いで和らいだ。
そして、俺達はみっちゃんの家に向かった。


ピンポーンッ。
インターホンを鳴らす。すると、遼ちゃんが出てきた。
「おぅ。チョウお久」
「久しぶり」
「みんなもういるぜ」
遼ちゃんはそう言って、部屋に戻って行った。
「どうぞ」
「ありがとう」
俺は彼女を先に入れてから、自分も入りドアを閉めた。
「チョウ!!」
部屋に入るなり、みっちゃんが叫ぶ。
「久しぶり」
彼女はみっちゃんに笑いかけた。
それにしても、みっちゃんのオープンぶりには驚かされる。よくもまぁ、あんなにアタックできるものだ。
「何してた?」
俺はそう聞きながら座った。
「とくに何もー。チョウ、ポッキー食う?」
けいちゃんが手に持っていたポッキーを彼女に突き出す。
「ありがとう」
彼女が手を伸ばしてポッキーを取ろうとする。その様子を、みっちゃんはずっと見つめていた。

うわぁ…。
なんか嫌な予感…。

「ちょっと待った!!」
あとちょっとで彼女の指がポッキーに触れるというところで、みっちゃんが叫んだ。
彼女とけいちゃんと裕貴と義文は、驚いてみっちゃんを見る。俺と遼ちゃんと正樹と文弥は、みっちゃんがまた良からぬことを考えるだろうと予想していたらしく、『またか』という顔でみっちゃんを見る。
「チョウ!ポッキーを普通に食べるなんてもったいないよ!!」
「お前今まで普通に食ってただろ」
けいちゃんがそう言って、みっちゃんを無視して彼女にポッキーを渡そうとする。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!俺の話聞け!!」
「んだよ」
けいちゃんは心底面倒臭そうな顔をみっちゃんに向ける。
「あれやろう!!‘ポッキーゲー…
「はい、チョウ食べていいよ」
「ありがとう」
みっちゃんの言葉を途中まで聞いてくだらないとわかったらしく、2人はみっちゃんを無視してポッキーを食べた。
「ぶっ」
遼ちゃんがそれを見て噴き出す。
「笑うなよ!」
「悪い、悪い。んで、なんだって?」
遼ちゃんは笑いたい衝動を堪えながら、みっちゃんに聞く。既に声には出してないが、顔は笑っている。
「‘ポッキーゲーム’!前CMでやってたじゃん!」
「古っ」
文弥がつっこむ。
「懐かしー。どういうんだっけ?それ」
彼女が少し興味を持ってしまったようだ。

ちょっとまずくないか?

「2人がポッキーを両端でくわえて食べるんだけど、恥ずかしくなってどっちかが口を離しちゃうでしょ?それで、そのポッキーの長さで2人の愛を測るってやつ」
何故みっちゃんはそんなに詳しく知っているのか?
疑問に思ったが、あえてそこには触れなかった。
「あーねー。やるの?」
「うん!やるよ!」
彼女が少し興味を持ったことがみっちゃんにもわかってしまったらしい。
「じゃあ、どうぞ」

え?

彼女の言葉に、俺達はおろか、みっちゃんまでもが疑問符を浮かべた。
今の流れからすると、彼女とみっちゃんがそれをすると誰もが思った。
「『どうぞ』って…?」
みっちゃんが聞く。
「え?だってやるのって、充さんと義文君じゃないの?野球拳の時みたいに」
彼女の言葉に、みっちゃんと義文以外全員が爆笑した。
「そうだよな!!ここはみっちゃんと義文だろ!!」
「やってやれよ義文!!みっちゃんのために!!」
「みっちゃん超やりたがってるしさ!!」
「俺達がちゃんと見届けてあげるよ!!みっちゃんと義文の愛の深さを!!」
上から順に、文弥、正樹、けいちゃん、裕貴が笑いながらまくし立てる。
遼ちゃんはというと、さっき噴き出した時のことを思い出してしまったらしく、今回のとさっきのとダブルパンチで腹を抱えてピクピクしながら笑っている。
問題の2人はというと、義文は固まっているが、みっちゃんは無言で何か考えているようだ。

またあいつ何か考えてるよ…。

「そうか…」
何か考えついたらしく、みっちゃんが何か言い出す。
「野球拳の時と同じなら、義文の後はチョウだな」

……。
そうか!
彼女全然負けなかったから、勝負したこと忘れてた。

「ちょっと、お前それ…
「んー?まぁ、いいよ?」
俺がみっちゃんを説得しようとしたのに、彼女は承諾してしまった。
「え?いいの?」
俺はびっくりして聞く。
「まぁ、別にそんな変なことじゃないし」

いや、変でしょ。

「でも…
「何、ゆうちゃんもチョウとやりたいの?」
みっちゃんがニヤニヤした顔で聞いてくる。

こいつ…。
やりてぇよ…。
最高に…。

「パス。深田さんに悪いし」
俺は気持ちとは裏腹の事を言い、ポテトチップスに手を伸ばした。
「あっ、そう?じゃあ、今やりたい気持ちを抑えて、夜やろうぜ」

こいつ、酒のせいにする気か…。


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あきゅろす。
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