[通常モード] [URL送信]

Lily
車〜裕貴〜
「お前等誰ー?」
遠くから声がした。
なんとなく、ヤバそうな車が停まっているのが見える。

俺達?

俺達は顔を見合わせた。
「何あの人達?」
みっちゃんが軽く喧嘩腰になっている。
「ちょっと、やめろ。流石に相手がヤバイ。向こう車だし」
ゆうちゃんも危険を感じたらしい。
「誰だよお前等ー?!」
さっき無視したことが悪かったらしい。声がキレている感じがする。
「逃げるか?」
遼ちゃんがそう言ったと同時くらいに、車が俺達の周りを、円を書くように走り出した。
「ねぇ…。なんか囲まれてるよね…?」
はっきり言って、超怖い。
「だって、ここは俺の家の島だぜ?」
みっちゃんの言う通り、ここらへんは内藤家の領域だ。だから、ここでやっているのだが。
「あんな流れ者なんかにでかい顔されたくねぇよ」
「いや、今そんなこと言ってる場合じゃなくね?」
義文の言う通りだと思う。
すると、どこからか車が増え、周りを走る車に加勢するように、円を書いて走り出した。
「誰だよてめぇー等?!」
「じゃあ、組の奴呼ぶ?」
「いや、ちょっと待って」

え?

そう言ってみっちゃんを制したのは、なんとチョウだった。
「あの車に見覚えある」

は?

「え?だから?」
文弥が聞き返した。
「知り合いが乗ってるかも」
「マジ!?」
俺達は声を揃えた。
「返事しろやー!!」
「いや、たぶんだけど…」
そう言って、チョウは中に乗っている人を見るように目を凝らした。
すると、また1台車が加わった。
「あっ」

『あっ』?

チョウは3台目の車を指差した。
「あの車、たぶん知り合いが乗ってる。あのステッカーは間違いない」
チョウが言うように、3台目の車にはステッカーが貼ってあった。
「え…、どんな関係…?」
「先輩?」

先輩!?

「中学の時のね。北斗と同じ学年だけど、北斗はあまり好きじゃなかったみたい」
「へぇー…」
文化祭の時の話といい、チョウの中学の異様さが手に取るようにわかる。馬鹿揃いの俺達の中学よりも、馬鹿が揃っているのではないか?
「じゃあ、ちょっと帰ってもらうように頼んでくるね」
「おぅ」
みっちゃんの言葉は聞いてチョウは頷くと、車に近付いて行った。

本当に大丈夫…?
でも、いざとなったらみっちゃんがさっき言ったように、内藤組の人達呼べばいいのか。

「林先輩いますか!?」
チョウが車に向かって叫ぶと、車に乗っている人達が、顔を窓から覗かせた。
「誰、誰?」
「何、あの子?」
会話している間も、車は走り続けている。
「『林先輩』って、隆利?」
「隆利ー!女の子に呼ばれてんぞー!!」
車は、チョウが立つスレスレの所を走っている。

本気で大丈夫…?

すると、ステッカーの貼ってある、さっきの車の後部座席の窓が開いた。
「何ー?」
顔を出した人は、チョウの存在に気付かずに、別の車に乗っている人に話しかけた。
「その女の子がお前の名前呼んでるー」
「女の子ー?」
そう言いながらチョウを見たその人の目が見開かれたのが、暗いのによくわかった。
「深田!?」
「はい!お久しぶりです」
「マジ!?なんでこんなとこいんの!?ちょっ…、待った!!おい、みんな!!車停めろ!!」
すると、それぞれ車は円からそれていき、停まった。そして、車からぞろぞろと人が降りてきた。

怖っ。

1人の男がチョウに近付いて行く。それが‘林先輩’だとわかる。
「深田!?マジで深田!?」
「はい」
「何でいんの!?」
‘林先輩’はそう言って、チョウを抱きしめた。

はぁ!?

俺達は動き出そうとしたが、それをけいちゃんが止めた。よく見ると、チョウは抜け出そうと‘林先輩’の体を押している。
「お久しぶりです。花火してたんですよ」
「あいつ等と?」
‘林先輩’が俺達を凝視しているのがわかる。
「はい」
「隆利ー。誰その子ー?」
ぞろぞろと、他の人達がチョウの周りに集まって行く。

囲まれてるじゃん!!

心配になって、みんなはどんな様子なのか見渡すと、チョウが変なことをされたらすぐに動き出せる雰囲気を漂わせ、チョウを見守っていた。正直、車を降りた丸腰の相手なら、みっちゃんとゆうちゃんがいるから、もしやりあいになっても勝てる気がする。
「メッチャ可愛いじゃーん。何この子、お前の彼女ー?」
「いや、違います」
‘林先輩’ではなくて、チョウがきっぱりと否定するところが面白い。あんな囲まれている状態で、あんなことが言えるチョウはやっぱりすごいと思う。
「違うんだ。おい、隆利。彼女じゃないのに抱きしめてんじゃねーよ。嫌がってんじゃん」

全くだ。

「うるせーよ。それより深田、あんな奴等と遊んでないで、俺等と遊ばね?」
「いいねー」

いやいや、全然よくないから。

「いやー、結構です」
「花火なら、あいつ等じゃ買えないようなもっとすごいの買ってあげるぜ?」
「そんな花火別にやりたくないですよ」
「そんなこと言わずにさ。絶対俺等と遊ぶほうが楽しいって」

失礼な。

「いや、それはないと思いますよ?」
チョウが結構、酷い断り方をしていることに気付いた。みんなも気付いたらしく、ニヤニヤしながらチョウを見守っている。
「ってか、もう俺深田見た時から起ちっぱなしなんだけど。良いホテル知ってるんだけど、どう?」

なんてストレートな。

「冗談はよしてくださいよ」
そう言うチョウの声は、なんとなく明るい。
「俺も一緒に寝たーい。みんなで寝ようよ?」
「いやいや、私はご遠慮したいですね」
このチョウの断り方が結構酷いものだということに、この人達は気付いていないのだろうか?
「そういえば、佐々木に変なことされてない?」
「確実に、林先輩よりは変なことしてきませんよ。ってか、そろそろ放してください」
「またまたー。ホテル一緒に行くって言ったら放してあげるけど?」
「全然、関係ないじゃないですか。そういう所は彼女と行ってくださいよ。彼女いないんですか?」
「彼女は、この前別れちゃった」
「こいつね、元カノに『性処理だけなら私じゃなくてもいいじゃない!!』って言われて振られたんだって。マジウケるよねー」
「良い締まり具合だったんだけど。なぁ?」
「あぁ、あの女は最高だった。舌使いも上手かったし」

女の子の前でそんな話すんなよ…。
下品な奴等…。

「あの、思い出話に華を咲かしていらっしゃるところ失礼ですが、そろそろお帰りいただけますか?」
すごく丁寧な言葉なのに、帰らせているところが面白い。
「深田も帰るの?」
「まぁ、そのうち」
「駅まで送って行こうか?それとも、ホテル一緒に行く?」
「いや、まだ帰りませんし。そんなにホテル行きたいなら、みなさんだけでどうぞ行ってください」

あはは。

「俺等で行ってもつまんないっしょ」
「それは行ってみなきゃわかりませんよ?まぁ、私は、今日はもう友達の家に泊まる予定なので」
「ふーん。じゃあ、またいつか一緒に遊ぼうな?」
「いつか時間があったら」
「じゃあ、行くか」
「ホテルはー?」
「今日は無理だって」

今日だけじゃないと思うけど。

「ふーん」
そんな理由で納得したのか、みんな素直に車に戻って行った。
「またな、深田」
「バイバーイ」
「さようならー」
チョウが手を振る中、車は引き上げて行った。
そして、チョウも俺達の元に戻って来る。
「チョウ、すごいじゃ…
「キモイ!!」

……。
え?

「本当、鳥肌立つ。触んないで欲しいよね」
チョウは自分の体を摩っている。
「じゃあ、俺が…」

え…?

みっちゃんの言葉が止まった。
というか、全員の言葉が止まった。けいちゃん1人を除いて。
「けいちゃん…?」
チョウも、けいちゃんの行動に驚いている。
「俺が、さっきの人に抱きしめられたこと忘れさせてあげる」
俺達はみんな口を半開きにして、けいちゃんを見ている。
でも、そんな表情になるのも無理はない。どう考えたって、そんな行動をするのは俺達の中にはみっちゃんしかいないと思う。実際、みっちゃんはチョウを抱きしめる気満々だっただろう。
「あ…、ありがとう…」
チョウは戸惑いながらも、けいちゃんにお礼を言った。
結構な時間抱きしめていたと思う。とうとう、けいちゃんはチョウを放した。
「こんなもんで平気かな」
「うん。ありがとう」
なんとなく、チョウの顔が赤いのは気のせいだろうか?
いつもならなんか文句を言うみっちゃんも、今回は意外過ぎるのか何も言わない。
俺達が呆気に取られていると、けいちゃんが花火の片付けを始めたので、俺達も慌てて片付けを始めた。
「何で北斗さんと仲良くなかったの?」
正樹が聞いた。

俺もちょっとそれ気になってた。

さっきのけいちゃんの行動で、すっかり忘れていた。
「仲良くなかったっていうか、北斗が一方的に嫌ってただけだけどね」
チョウはそう言って苦笑する。
「へぇー。何で?」
「なんとなく、想像できるけど」
ゆうちゃんが花火の片付けをしながら、そう言った。
「は?想像できるの?」
「さっきの先輩に告白された?」

そゆこと?

ゆうちゃんの言葉を聞いて、俺達は一斉にチョウのほうを向いた。
「正解」
チョウは苦笑しながら、はっきりとそう言った。
「ほぉー…、なるほどねぇ…」
「本当、あの人気持ち悪くて、私がそのことを北斗に言ったら、北斗が怒ってくれたんだよね」

気持ち悪いって…。

みっちゃんの行動でも普通に受け入れてしまうチョウが、気持ち悪いと言うのだから相当嫌いなのだろう。
「何が気持ち悪かったの?」

それ、普通聞いちゃう?

義文のデリカシーのなさに驚いた。
「毎日部活が終わったら、部室の前で待ち伏せされた」
「えっ」
「部活ない日でも、教室まで来られたっけな?」
「チョウ、何部だったの…?」
「バスケ」

うん…。
バスケっぽいけど…。

「その人は…?」
「バスケ」
「あぁ。だから、余計ね」
「うん。それも、あんなキモイのに上手くて部長だったから、何気モテてた。あたしの友達で告白してる人いたし」
「へぇー…」
「羨ましがられたっけなぁ…」
そう言うチョウは、冷笑を浮かべた。

怖っ!

「代われるもんなら、喜んで代わったのに…」
「それで、一緒に帰ったの?」
文弥が話を戻した。
「あー、うん」
「帰ったんだ!?」
「いや、帰ったって言っても、北斗がいない時だけね。待ち伏せされ始めた最初の頃とか」
「北斗さん、ちゃんと学校来てたんだ」
みっちゃんがすごく失礼なことを言った。
でも、そう言いたくなる気持ちはすごくわかる。なんとなく、俺達と同じ匂いを感じる。でも、きっと北斗さんは俺達より何倍も大人だろう。年齢だけでは補えない、何かがある。
「いや、すごい休んでた」

やっぱり!!

「え?じゃあ、やっぱり一緒に帰ってたの?」
遼ちゃんが聞いた。
「いや、放課後迎えに来てくれた」
「マジで?!」
「うん」
俺達は顔を見合わせた。

本気…?

「それって、チョウが頼んだの…?」
「確か、頼んだ記憶はないんだよね」

マジですか?

「友達と帰ってると、みんな無駄に空気読んでくれて、先帰っちゃうんだよね。向こうは一応先輩だし」
「なるほど…」
「だけど、北斗さんだったら大丈夫だったと…」
「そういうことですね」
チョウは笑顔でそう言った。
「だからって…」
ゆうちゃんが何か言いかけてやめた。
「ん?」
「いや、なんでもない」
「ふーん。じゃあ、もう帰ろっか」
「あぁ」


『だからって、普通そこまでできないだろ…』
ゆうちゃんが言いたかったことが、手に取るようにわかる。
ただの幼なじみだったら、迎えに行くなんて、確実にやらない。『好きだから』なんていう理由だけで毎日迎えに行くこともまずできない。嫌われてしまいそうで怖い。付き合っているならわからないけど、北斗さんとチョウは付き合っていないというし、チョウは今まで恋人がいたことはないという。
そんな北斗さんのチョウへ向ける愛情の大きさを、俺達は改めて感じた。


[*前へ][次へ#]

6/25ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!