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運命ノ靴音
2

介入する権利を持たない自分が腹立たしい。
想い人が恋敵の部屋へ向かうと知っていながら指を咥えて見る以外に術が無いとは。
何か手は無いかと考えを巡らせていた俺は近づいて来た気配に気付き顔を上げた。


「桐生くん!顔!怖いよ!」

ただいま、と微笑む柚月は心無しか、肌をツヤツヤと艶めかしている。
どうやら充分に趣向を満たして来たようだ。
隣の流も複雑な表情を浮かべてはいるが、どこか嬉しそうに柚月を迎えた。

かと思えば、柚月はソワソワと入り口を気にし始める。
満足して戻ったのではなかったのか。

「大丈夫だよ桐生くん。もうすぐ副会長が戻るんだ。そうすればきっと辻先輩、…」

いい終えるその前に、柚月の視線の先から絹の様にたなびく長髪が現れた。
途端に息を飲み、動きを止めた柚月は役目を放棄してしまう。
俺にとっての一大事にあって、大切な情報源が機能停止は痛い。

副会長が何だと言うのだ。

俺達三人の視線の先、副会長は辺りを見回し、一点で目を止める。
僅かながらに眉を潜め、そうかと思えば口元に浮かべた笑みを凶悪に歪めた。
よくあそこまで、人の悪さを表情に乗せられるものだと感心すらしてしまう。



「おや、千景。仲の良いお友達でも出来ましたか?」

副会長はその足でわざとらしく踵を鳴らし、会計の傍まで歩み寄った。
うっ、唸る様な声を出したかと思えば普段より随分と年相応な顔をした会計が振り返る。

新鮮な反応を見せるものだ。

「あ、いや、伊織…」

「しかしどうでしょうね。自分の立場と他人の迷惑も少しは考えて頂かないと。その点、桐生を見習ってはどうですか?」

ねぇ石動くん、と取り敢えずと言った風に声だけ掛ける副会長に、とうとう焦り出した会計が立ち上がる。
渦中にいながら、どこか蚊帳の外といった立場を居心地悪そうに、曖昧に笑った石動に会計は気付かない。
余程の動揺に襲われている様だ。


「あはは…そうだよねぇ。あ、そろそろ時間?俺、先に生徒会席に…」

「おや、仕事をする気になりましたか?それは良い傾向です」

明らかに逃げに出た会計の話を遮り、また一歩、会計に近付いた副会長は一層爽やかな笑みをその顔に貼り付けた。


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あきゅろす。
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