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秘密コウサク
熱い夏の過ごし方


『あのさ……』

『ん?』

『オレ、幹人さんに言わなきゃいけないことがあって』

『……もしかして、別れ話?』

『ええ!? それはない! 絶対ない!』

『なんだ、よかった』

『っ!』

こんなやり取りを何度しただろうか。
あれからオレは幾度となく幹人さんに告白しようとしてきた。
オレが男であることを。
でも、幹人さんと会えるのが嬉しくて、撫でられるのが心地よくて、微笑まれるのが幸せで、気がつけばずるずる時が過ぎ。
案の定、日を追うごとに告白の難易度は増していった。

付き合い始めてから早3週間。

世間は夏休みに突入していた。
かく言うオレもその1人だ。
けれど、幹人さんは違う。
あの人はまだ2年生で、受験生ではないはずだが、そこは流石進学校。
もう既に進学に向けての特別課外講座というのがあるようで、なんだか夏休み前よりも会う頻度が減ってしまった。

夏休み前はわざと帰宅時間を合わせて帰っていたのだ。
そしてたまにあの喫茶店に寄って、だらだらと二人で話していた。
だらだらというのは謙遜かもしれない。
うまい言葉を当てはめるなら、デレデレ…いや、あまあま…ラブラブ…。
とにかく、もう凄い、オレは、幹人さんが大好きということだ。

なんでこんなに好きになってしまったんだろう、というくらいに好きだ。
痴漢から助けてもらって、目が合って、彼に会いたくなって、ずっとずっと会いたいと思っていて。
気がつけば男の幹人さんに好きと言っていた。
いや、気がつけばなんて洒落たじゃあない。
もう、びっくりするくらいついポロッと言い放ってしまったのだ。

しかも困ったことに、それを全然、これっぽっちも後悔していない。
とっさに津田敦子なんて名乗ったことには、日本海溝なんて目じゃないくらい深く深あく後悔したが。
好きという言葉を滑らせたオレの口には、心底感謝している。

何が引き金になって幹人さんを好きになったのだろう。
恋に年の差は関係ないとはよく言うけれど、まさか性別も関係ないというのを、オレ自身が体現することになろうとは、思ってもみなかった。

それに幹人さんも幹人さんで、不意をついてはオレのことを好きと言ってくれる。
照れながら。
可愛いはもっと言う。
眉を寄せながら。
学校の奴らに言われてもムカつく以外の感情は湧かないが、幹人さんに言われるとオレはもうダメだ。
ゴロゴロして、すりすりして、構ってほしくてたまらなくなる。
実際に腰をがっしり掴んで擦り寄る。
あの人もしょうがないなあって顔をふやかすもんだから、オレは幹人さんのためなら女になってもいいかも、なんて危険思考に走る。

頭の片隅ではこのままじゃ駄目だとわかっているんだ。
オレが女じゃないってことを、いつか絶対言わなきゃならない。
これは義務だ。
必須事項だ。
わかっている。
アイアムアンダースタンドだ。
けれど、その決意もとろとろに溶けてしまうくらいに。

「幸せなんだよ〜!!」

「うるせーボケェ!」

蝉の音が掻き消えそうな勢いでスパーンと丸めた漫画雑誌で叩かれ、オレは痛いと呻いた。
クソ、幹人さんからのメールを受信した携帯を片手に、幸せの絶頂を噛み締めているオレを叩くとは、なんて奴だ。
そう恨みを込めて、オレのベッドでのうのうと寝っ転がる一個上の幼なじみ――地引優太を睨んだ。

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あきゅろす。
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