秘密コウサク 正真正銘男です? 大変なことになった。 結論から言うと、オレは奴と、お付き合いすることになった。 あらゆる意味で、ぶっ倒れそうだ。 オレたちはホームを甘酸っぱい告白現場に仕立て上げた後、逃げるように駅前の喫茶店へ入った。 そこでオレは奴が橘幹人という名前だと知り、幹人さんはオレの彼氏になった。 どうやら、幹人さんはオレのことを結構前から知っていて、意識していたらしい。 あの痴漢事件の時は、オレが痴漢に遭っているのを発見して、居ても立ってもいられなくなり、文字通り人波を掻き分けて行ったんだそうな。 ちなみにオレは、それを知ってカフェオレを吹き出した。 幹人さんは甲斐甲斐しくオレの口元を拭いてくれ、オレは彼の制服の裾をぎゅうっと握り締めた。 幹人さんが真っ赤なオレを見下ろして目を細めた。 超が付くほど、幸せだった。 うっかりまた告白してしまうと、幹人さんは、 「僕もだよ」 とオレの頭を撫でた。 そして、 「まさか、君が本当に僕の彼女になるなんてね」 と、幸せそうに言い放ってオレの頭を真っ白にさせた。 「彼女……?」 オレが呟くと、幹人さんは仄かに赤くなって頷いた。 オレは青くなって硬直した。 そういえばいつまでも君じゃ変だね、と苦笑いを返されて名前を聞かれた。 とっさに津田敦子と名乗った。 携帯のメアドを交換すると、あれ津田“アツ”になってるよ、と指摘され、大量の冷や汗を掻いた。 そう、オレは橘幹人という彼氏を手に入れたが、幹人さんは津田敦子という“彼女”を手に入れたのだ。 男と付き合うのになんの抵抗もなくて変だな、とは思ったが、それはとんでもない思い違いだった。 幹人さんは飽くまで、前から意識していた“女の子”に告白されて、承諾したのだ。 オレは、面倒臭くてジャージ姿で帰宅し続けた己を呪った。 とっさに津田敦子なんて名乗った己には、胸倉つかんでヘッドバットを喰らわせてやった。 無論、心の中で、だ。 どうしよう。 こんなの詐欺だ。 けれど、もう後戻りはできない。 本当に、大変なことになった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |