秘密コウサク
2
ドアに指がかけられて、こじ開けられる。
鞄がスポンと抜けて、オレは反動で後ろへ尻餅をつきそうになった。
そこをぎゅっと支えられる。
電車が走り出した。
「大丈夫?」
「あ……」
見上げたら、奴がいた。
心配そうな顔で見つめられた。
途端に喉が詰まった。
おまけに胸も詰まった。
さらには顔が熱くなって、なんだか涙腺も熱い。
オレはなんとかかんとか「アリガトーゴザイマス。ダイジョーブデス」と絞り出した。
奴は、「そっか」と言って緩く笑う。
くらり。
めまいがした。
「好きです」
「え……?」
オレの目から生暖かいなにかがポロポロ落ちる。
自分のことでいっぱいいっぱいで、なんかもうよくわからない。
とりあえず、自分すごいこと口走ってんなあという自覚がぼんやりとあった。
「えっと、それって」
奴の顔がみるみるうちに赤くなる。
「僕を、好きってこと…?」
「ハハハ、ハイ!」
ラララライみたいになった。
思いの外周囲に声が反響して、今更今の状況に気づく。
駅のホームには小さな人集りが出来ていた。
女子高生がキャーキャー言っている。
オッサンが若いっていいねえと呟いている。
小さい子供がなにあれーと指さしている。
オレと奴が、その中心で身を寄せ合っている。
奴は案の定ビックリして、「ホントに?」と聞いてきた。
オレはそれになんとか頷く。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
頭の中が“ヤバい”でいっぱいだ。
なにがヤバいのか見当がつかない。
頭が全然検討してくれない。
『やっぱりなんでもないっす忘れて下さい』そう叫んでいっそ土下座でもしようかと考え始めた頃、オレを支える奴の腕が小刻みに震えているのに気が付いた。
見上げれば赤面した顔がそこにあった。
「な、そ、嬉し……!」
な、そ?
「はぇ……?」
「いや、あの」
とりあえず、ここから離れようか。
奴はそう言ってオレの手を握ると、ずんずん歩き始めた。
後ろ耳が赤い。
「彼女大切にしろよー!」なんて謎の声援を受けて、オレは思わず握られた手をぎゅうっと握り返した。
奴の耳がますます赤くなった。
オレはたぶん、全身赤い。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!