秘密コウサク 気になるあいつ 一年生っていうのはどこの世界でも雑用を担う運命にある。 かく言うオレもそのうちの一人だ。 暗くなり、テニスの球がもう見えないから、と先輩達が切り上げるなか、毎日恒例の球拾いに励んでいた。 球数は全部で65球。 あとの一つがどうしても見つからない。 一年生五人がかりで、溝とか、フェンスの向こうとか、もうかれこれ15分、必死に探しているが、それでも見つからない。 見つからないままだと先輩達に文句を言われる。 それがかなりキツい。まあ、オレも少し前までは文句を言っていた側だった。 見つからない時は本当、民家の庭に忍び込もうが、排水溝に手を突っ込もうが見つからない。 でもだからといって、その度に先輩が後輩に、「じゃあしょうがないね」と甘くすると、見つかるものも見つからなくなってしまう。 だから先輩は嫌でも文句を言うんだぜ。 これはGW中に来たOBの先輩が言ってたことだ。 オレたち一年生は直立してその言葉を聞いたものだ。 肝心の先輩達は、部活が終わってさっさと帰った。 このまま見つからなければ、明日あたり文句を言われるだろう。 夕日が沈み切って辺りが真っ暗になった頃、こりゃ無理だと諦めた一年生一同は、たったかトンボを引き、ネットを下げ学校を後にした。 みんな腹が減って死にそうだったので、近場のマックに寄り、鱈腹食って解散した。 電車に揺られて、オレはぼけっと窓から景色を眺めていた。 すっかり青くなった桜並木が街灯に照らされている。 川を隔てた向こう側にも。二週間くらい前までは葉の間にちらほら薄桃色が見えていたのに。 オレはふと痴漢事件のことを思い出した。 あれもたしか二週間くらい前だった。 電車に乗るとたまに思い出す。 満員の時なんかは特に。 それでオレはなんだか落ち着かなくなって、周囲の乗客をチラチラ盗み見る。 自称オレの彼氏の顔は、はっきり言ってそこまでぱっとしなかったから、そろそろ忘れてしまいそうだ。 忘れてしまうのは、なんとなく癪だ。 どんな顔だったっけ、とオレは乗客を眺めた。 ヘッドフォンで音楽を聞く男。 いや、奴の目はもう少し垂れていた。 こんな釣り目じゃあない。 椅子に座って漫画を読む男。 いやいや、あんなイケメンじゃない。 鼻はキュッとしていたけどあんな高くないし、あんなキリッとした眉でもなかった。 吊革に捕まって参考書を読む学ラン。 あー、ちょっと似ているかも。 若干童顔なんだよな。 それで……、 オレはそこで、あれ? と思った。 奴の顔どんなんだっけ? 頭んなかで奴の顔がゲシュタルト崩壊した。 電車のドアの隅っこでうーんと唸る。 駄目だこりゃあ、もう思い出せねえ。 諦めてドアに頭を寄せた時だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |