秘密コウサク 正真正銘男です 部活を終えたオレは、制服に着替えるのが面倒臭くてジャージ姿で帰宅していた。 いつものことだ。 そして今、見事に帰宅ラッシュに巻き込まれ満員電車に揺られている。 これもいつものこと。 だが、尻を弄られて硬直したまま立ち往生しているのは、断じていつものことじゃない。 なんだこれは。 なんなんだこの常軌を逸した状況は。 けれど悔しいことに、野郎が野郎に痴漢行為を働いているという、なんとも酔狂な事態に陥ってしまっている所以について、オレは粗方の予想が着いていた。十中八九。 この痴漢はオレを女だと勘違いしている。別にオレの頭が春に浮かれておかしくなっている訳じゃない。 これまでの、15年間の目に余る経験を基にはじき出した、実に現実味溢れる予想だ。 恥ずかしながら、オレは女顔なのだ。 それも重度の。 おまけにチビで、痩せっぽちで、肌が焼けない。 生粋のもやしっこなのだ。 オレが男モノである高校の制服に身を包めば、周囲は大抵奇異の目を向ける。 津田敦だと名乗れば、「あれ、もしかして男の子!?」なんて素っ頓狂な声を上げられる。 もしかしなくても、オレは男なのに。成長期は未だ訪れる気配はない。 が、それでも、正真正銘オレは男だ。 未使用だし標準サイズではあるものの、男の象徴であるアレもちゃんとついているし。 なのにクラスの奴らときたらオレで抜けるぞなんて爆笑しながら言いやがる。 オレが本当に女だったら名誉毀損で訴えてやるところだ。 「ちょ…っ」 思わず声が出た。 オレが大人しく固まってるもんだから、痴漢の野郎。これはイケるぞと踏んだらしい。 ケツの割れ目をなぞられて、いよいよ冗談では済まされないレベルになってきた。 ふざけてんのかコイツ、電車内だぞ、捕まったらどうすんだ。 なんでか自分の心配より痴漢の心配をしてしまっていたら、状況が急変した。 急変させたのは他でもない。 ちょっとオジサン、と緊張したようにかすれている声の主だ。 振り返れば、オレと同じくらいの年の男が痴漢らしき中年男の腕を、乗客を掻き分け掻き分けギリリと掴んでいる。 中年男はムッとして、なんだ、と声を張った。周囲の乗客がざわめく。 「僕の彼女に触らないで下さい」 「「なんだって?」」 オレと中年男、二人分のなんだって? が重なった。 周囲が一際波立った。 えー、とか、わー、とか困惑している。 けど一番困惑してんのは間違いなくオレだ。 [次へ#] [戻る] |