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きみのためなら死ねる。
5


「…ん、…ん!…んぁ?ぃ痛!!」
「起きた?」

 激痛に目が覚めた。なんだと思って痛みの元を辿ってみると、桂木が俺の足首を掴んで何かをしていた。
なんで桂木がいるのか、ここはどこなのかと一瞬混乱した。だけどそれもつかの間。鋭い痛みに無理矢理寝る前までの記憶を引っ張り出された。

「お前、もう大丈夫なの!? てか、ちょ、痛い痛い痛いって! 何してんの!?」
「治療」
「治療!?」

どう見てもピンセットで俺の足を抉っているようにしか見えない。

「動くな。足に食器の破片が食い込んでるから」
「破片って、なんで!? ぁ、痛い痛い! 待って! ちょっと待って!」
「待てない。あと、ちょっとうるさい。ここ、壁薄いから近所迷惑になる」

そう言って黙々と足の裏を抉る桂木。

「ぎゃあ! 無理だから、ホント、無理っ無理ぃぃい!!」
「すぐ終わるから、我慢して」
「〜〜っ!!」





「ほら、終わった」
「…お…鬼…」

 その治療とやらが終わるころには俺の息は絶え絶えで、額には脂汗が滲んでいた。桂木は破片を取り除くだけではなく、必死に悲鳴を抑える俺を尻目に消毒液をこれでもかというくらいに傷口にかけてくれ、おまけに包帯もきつく巻いて下さった。
どうやら俺は桂木の布団で眠っていたみたいだ。学ランのままだったから、いたるところが皺くちゃだ。

 それから、昨日はとても落ち着いて部屋の様子なんて見られなかったけれど、桂木の家は、今いる6畳ほどの和室が一つ。そして絨毯が敷かれた同じくらいの広さの部屋が一つ。それからキッチンと玄関がある部屋を加えて構成された2DKの、結構広い間取りだった。

 昨日暗い中でも障害物にあまりぶつからずに窓やベランダに続く戸を開けることが出来たのは、全体的に物が少ないためだった。部屋には机や本棚やタンス等があるだけで、テレビやテーブル等はない。本当に必要最低限の物しかないガラリとした部屋だった。部屋の様子を見るに、桂木は相当な綺麗好きか、極端に人の出入りが少ないかの、どちらかみたいだ。

 そして肝心の桂木の様子はと言うと、やけに(たぶん)機嫌がいい。パッとみて自殺願望者には見えない。それに、昨日の屋上の件と比べると、なんだか雰囲気が丸い…ような気がする。桂木とはあんまり話したことが無いから、その辺りは何とも言えないけれど。

 それにしても、外が明るい。全開にされた窓からは日光もサンサンと降り注いでいるし、少し暑い。今何時だろう。そう思って、俺は尻の下で下敷きになっている哀れな携帯を引っ張り出して現在時刻を確認した。

「え……く、9時!? てか、着信8件って…! ヤバ、学校、遅刻!」
「おちついて。今日は土曜だ、学校はないよ」
桂木の顔は完全に呆れている。
「あぁ、なんだ、よかった…。じゃなくて! 俺、ごめん、お前ん家泊まった?んだよな?」
「許可はしてないけど」
「そうだよな。ごめん」
「……」

 二人だけの空間に気まずい沈黙が流れた。
聞きたいことや言いたいことは山程あるけど、どこから切り出せばいいのか、どこまで踏み込んでいいのかが分からない。今でさえ落ち込んでいたり、思い悩んでいる様子のない桂木だけれど、昨日だけで二度も自殺未遂に及んでいるのだ。その決意は固いものであっただろうし、同時にそれを無理やり止めに入った俺に憤りを感じていたとしてもなんら不思議はない。




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