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参加
1
 

 第一印象は、「かわいい人」。
 大学を卒業して就職した会社で、配属先の経理課にいたその人と出会えたのは、この上ない幸運だったと思う。
 その印象は、仕事を始めて一週間ほどで「かっこいい人」に変わってしまったけど。


 昼休み、弁当を取り出して休憩スペースに向かう。
「喬木先輩」
「緒田……またか」
「はい」
 呆れたように言われたけど、そんなの気にしない。
 先輩は本当に呆れてるだけで、嫌がってるわけじゃないから。
 だいたいもう「好きです」って言っちゃったんだし、今更怖いものなんてない。
 それなら、できるだけそばにいたい。
 会社にいる間しか一緒にいられないんだから。
「いただきまーす」
 弁当の蓋を開けて手を合わせる。
 俺の向かいに座った先輩の手には、コンビニのパン。いつも同じ。
 飽きないんだろうか。……よっぽど好きなのかな、メロンパン。
「……なあ」
「えっ?」
 先輩の手元を見ながらどうでもいいことを考えていたら、短い言葉で呼ばれた。
 呼ばれた……んだよな?
「何ですか?」
「お前さ、前から思ってたけどそれって手作りだよな。誰が作ってんの?」
「え、俺ですけど」
「は?」
 なんかすっごい意外そうな顔をされた。
「いや、だから俺が」
「……お前が? 自分で?」
「はい」
「嘘だろ、だってこないだもらった卵焼きとかすげーうまかっ……」
 そこまで言って、先輩は言葉を切った。
 たぶん、「俺が作った卵焼き」を褒めてることに気づいて。
「先輩、卵焼き好きなんですか?」
「……別に」
 顔が「好きだ」って言ってますよ。
「食べますか? 卵焼き」
「いい」
 素直じゃないなあ。
 どうしたもんか。
「……俺、先輩のメロンパン一口食べたいんですけど」
「あ?」
「交換してくれませんか?」
 弁当箱を差し出しながら笑顔で交渉。
 これなら大丈夫じゃないかな。
「……いいけど」
 よし。
「ありがとうございます」
 本当は、メロンパンが食べたいわけじゃないけど。
 でもまあ、先輩がくれるものなら何でもうれしいし。
(……ん?)
 一口分ちぎってくれると思ってたら、先輩は食べかけのメロンパンをそのまま差し出してきた。
 これはつまり、そのままかぶりつけ、ってこと……?
(……いいのかな)
 ちらりと先輩をうかがうと、早くしろとばかりに睨まれてしまった。
 いいんだな。
「いただきます」
 ちょっと遠慮して小さめの一口。
「……うまい、です」
「だろ?」
 うーん。これなら毎日でも飽きないかも。
「先輩、卵焼き」
 お返し、と思って箸で挟んだ卵焼きを一切れ口元に運ぶと、意外にもあっさり食べてくれた。
 あっさりすぎて逆につまんない。
「……どうですか?」
「まあまあ」
 そんな幸せそうな顔しといて「まあまあ」?
 説得力なさすぎです。
 かわいい顔して仕事のできるかっこいい先輩、だと思ってたけど。
 やっぱり「かわいい」かもしれない。
(……やっぱり、好きだ)
 さて。
 明日はどうやって卵焼きを食べてもらおうかな。
 先輩の幸せそうな顔が見られるなら、何だってできるような気がした。


Ende.

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