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おお振り
キャプテンの苦悩
「片付けと戸締りとその他諸々よろしく、キャプテン」

悪魔が天使の顔して嗤ってる。恐怖以外の何者でもない。
神様、俺はあんたの気を損ねるような事をしたでしょうか。









『ああやって妬くくらいなら素直に言やいいのに』

花井は昨日の阿部の顔を思いだして溜め息を吐いた。
ひくりと引き攣った口元に、決して笑ってはいない目。
『コロス』その三文字が阿部を包む雰囲気から何から、ありありと伺えた。

『たまには素直に好きとか言ってやりゃ、水谷だって安心するだろうに』

自分が口を挟む事では無いけれど、と思いながらも、
花井はきっと首を突っ込んでしまうのだろう自分の性格を呪った。

『口出しちゃうんだろうなぁ。出しちゃうんだ。絶対』

自分の事は自分が一番良く解ってるさ、と自嘲気味に笑いながら花井は遠くを見つめた。

「花井ぃ〜」
「…水谷」

遠くを見ながら自分自身とそして仲間を憂いていると、自分を呼ぶ情けの無い声。
花井はゆっくりと後方を振り返った。

「どしたの」
「阿部がねぇ、何か知んないけどめちゃくちゃ怒ってんの」

昨日からずっとだよ?!と喚きながら、水谷はわざとらしく泣き真似をしてみせる。
お前が悪いんだろうがと内心で思いながらも、はいはいとぐしゃりとその柔らかな髪を撫でて宥めてやる花井は相当のお人好しだろう。

ハァ、と本日二度目の溜め息を零していると、フと影が落ちてきた。

「…水谷」
「ひぃっ」

背後から聞こえた普段より低い声に水谷はびくりと肩を震わせた。
恐る恐ると言うように背後を振り返る。

「話はまだ終わってないっつってんだろ」
「ぅ…だって、阿部の話し難しすぎて解んないよぉ!」

どんな話をしたんだよ。

「あー、阿部、此処教室だし、話しはまた改めてからでいいんじゃないか?」

両手を胸の前に上げてまぁまぁと阿部を宥めるようにしながら言うと、阿部は花井をギロリと一瞥してフン、と鼻で笑った。

「な、なんだよ…」

花井にとって気持ち悪い事この上ない。
額と背筋にうっすらと嫌な汗が浮かぶのが判った。

「別に」
「…」

気持ち悪い。煮え切らない阿部の態度に花井は形の良い眉を寄せた。

「水谷、話しは放課後だ。席つけチャイム鳴るぞ」
「うー。解ったよぉ」
「・・・」

けれど尚も花井の側から離れようとしない水谷に阿部はチ、と一つ舌打ちをすると
その頭を思い切り叩く。

「…ったい!」
「早く行けつってんだろが」

薄らと目尻に涙を浮かべる水谷が頬を膨らせ立ち上がり様、阿部の手が伸びて水谷の髪をふわりと撫でる。

「…」

それは傍から見てもとても優しい手つきで、撫でられた水谷は当然顔を真っ赤にして、
阿部も薄らと頬を染めていた。(すぐに普段の悪人ヅラに戻ったけれど)
水谷は真っ赤になったまま慌てて自分の席へと戻っていく。
それを見て阿部はフン、と満足そうに腕を組んで笑っていた。

『何なんだよ。このバカップルめが!』

花井は内心でそう毒づくが、はた、と此方をじっと見ている阿部に気付く。

「な、なに」
「お前、昨日水谷に抱きつかれてちょっとドキッとしたろ」
「ぅえ?!」

ドスの利いた低い声で言っているというのに顔は笑っているものだから、おぞましい事この上ない。

『目が笑ってない、目が笑ってないよ阿部!』

花井は挫けそうになった。

「…あいつもあいつだがな。誰彼構わず抱きつくわ、好き言うわ、危機感てもんが全く無い」
「…」

仰る通りで。水谷はそのキャラ故か、皆と、誰でも仲よく。がモットーのような奴だ。
所構わず抱きついたり、優しくされればやれ好きだの大好きだの…。
「栄口大好きー」そう言いながら栄口に抱きつく水谷が容易に浮かんでしまうほど。

実際阿部はそのせいで随分と苦労しているんだろう…。

「あいつは俺のだ」

今だって花井に牽制かけたり。

「阿部…解ってるよ、そのくらい」
「言わなきゃわかんない奴もいるからな」
「・・・」

誰の事を言っているのかは解らなかったが、花井は、言うなら今だと思った。
スッと、阿部の方へ向き直り真正面からその目を見据える。

「それは、お前もだよ 阿部」
「あ?」
「言わなきゃ伝わんない。水谷にも、言わなきゃ伝わんないよ。いくら両想いとかでも、でもずっと素っ気無い態度とかとってたら誰だって不安になるだろ」

花井はそこで一旦区切ると、チラと水谷を見、阿部を見た。

「たまには好きって言ってやれよ。じゃないと水谷だって」
「いいんだよ、あいつはドMだからな」
「…は?」

花井の言葉を遮って、阿部はにやりと妖しく笑いながらそう言った。

「素っ気無くすればあいつは喜ぶんだよ」
「はぇ…?」
「ドMだからな」

ドMだから。ドMだから。
そのフレーズが花井の頭の中をぐるぐるぐるぐる…。

「ま、とにかくあいつは俺のだからな」

言い誇る阿部を見て、花井は薄らと涙しながら、もうこの二人には何も言うまいと、俺の無駄な労力を返せと、心中で嘆いた。


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あきゅろす。
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