君僕。 千羽鶴(悠+千) 鶴を千羽折ったら、願い事一つ。 きっと神様が、叶えてくれる。 「ゆうたん何してんの?」 放課後。 陽が傾きはじめて教室全体を赤に染めてゆく頃、千鶴は悠太の手によって生み出されるモノをじっと眺めていた。 「…これ、千羽鶴折ってるんですよ」 「ほへー」 「千鶴、千羽鶴知ってる?」 「んー。んー?」 曖昧な、唸るだけの千鶴に、悠太はフッと息を吐き出した。 その唇が、僅か、ほんの僅か持ち上がったのを、千鶴は見逃してしまった。 「鶴を千羽折って、願い事するんだよ」 「へー」 「一つだけね」 ふーん。と、千鶴が返している間に、また一つ、鶴。 きちっと端と端を合わせて折られたそれは、綺麗で、誇らしげだ。 「千鶴はさ、」 「うん?」 「千羽折らなくても、もう持ってますよね」 はたと。悠太の言葉の意味が理解できなくて、千鶴は鶴を持ったまま悠太を見上げた。 絡まる視線に、なぜ、という疑問を乗せる。 悠太はニ三度瞬きをすると、目線を手元へ戻して、また新しい紙で鶴を折り始めた。 夕日はいつの間にか水平線の向こうへ消えようとしている。 「ちづるは、持ってますよ」 「…」 「千の鶴。そう書いてちづるでしょ」 「……あー」 そっか。 わしわしと髪を掻き回して、千鶴は少しだけ頬を染めた。 「出来た」 悠太の手からポテ、と落ちた、生み出されたばかりの紙の鶴。 「願い事は一つだけだからね」 一生に一つだけ、本当に叶えたい願い事。 君は何を願うんだろうね。 [*前へ][次へ#] [戻る] |