君僕。
三十八度五分。(悠祐…)
ピピピピ、と電子音。
悠太は赤い顔をして服の中から
取り出したそれへ視線を向けると、
あー、と掠れた声で唸った。
「アウト、です」
久しぶりに悠太が風邪を引いた。
一昨日くらいから声が掠れてたりして調子はおかしかったのだけど。
「熱出ちゃったね」
「うん」
赤い顔の悠太。前髪が汗で額に張り付いていた。
「…風邪、久しぶりじゃない?」
「ん…そだね」
呼吸が荒い。しんどそう。
オレは見てることしか出来なくて。小さなあの頃のように悠太を置いて遊びに行く気にはなれない。元々行きませんけど。
「ゆうた、」
額に張り付いていた前髪を払ってあげる。
そのまま頬を撫でると、冷たい手が気持ちいのか、擦り寄ってくる。
(…かわいい、)
悶々。
いやいや。相手病人ですから。
「…何かいるものありますか」
りんごジュースとかどうですか。
「何も要らないから。居て」
「…」
何てこと言うんですか。
普段は大人びているのに。こういう時だからか、珍しい悠太の“甘え”。
暫く心地の好い沈黙が続いて。
オレは、布団の中でくたりとしている悠太を見ながらあるいい事を思いついた。
「ねぇ、オレに風邪うつしてよ」
「だめだよ」
「でも人にうつしたら早く治るって言うし」
「だめなものはダメ」
ケチ。アタシは悠太に早く元気になってもらおうと…って泣き真似をしたら、フッと笑われた。
ドキッ。ちょっとちょっと。かっこいいじゃないですか。
造りは同じ筈なのに。どうしてこうも違うかな。
(…ゆーた、)
口腔であまい名前を呼んだ。勿論、悠太は気付かない。
「…んー」
ぐるりと、見回した部屋。机に置かれたコップ。
持ってきたまま飲まれていないのか、表面には水滴が浮かんでいた。
…あ、またいいこと思いついた。
オレはコップを手にとって、中身を口の中へ流し込む。
当然ながら水は温かった。口腔に流し込んだそれを飲み込まないで、オレはベッドに体を滑り込ませた。
高校生になった今では、少し狭い二段ベッド。
オレは悠太の顔の横へ手を付いて、ゆっくりと顔を近付けた。
「祐希」
目ぇ瞑って。
水を含んでるから、口は利けない。でも、そこはお兄ちゃん。
オレの眼を見ると、瞼を閉じて唇を少しだけ開けてくれた。
「ん…んっ、」
上手く飲み込めなかった水が、溢れて悠太の口端を伝う。
「…うつるって言ってるでしょ」
「うつしてほしいの」
「もー…」
「いいから。黙って」
目を閉じてキスをして。
眠る時には手を握っててあげる。
だからさ、
「…早く元気になって下さい」
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