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小説
[バレンタイン 勘違い編]


二月十三日の晩。

布団に入り、まどろみとは程遠く、何を考えるわけでもなくただボーっとしていると、古泉に漫画を貸す約束をしていたことをふと思い出した

「あぁ、いけね…」


三冊くらいのペースで貸せばいいか、と適当な袋を探して突っ込んでおいた




[バレンタイン 勘違い編]




強制的に行われる朝のウォーキング。
まぁただの通学路なわけだが、漫画三冊分増えたくらいでこんなに気だるさが増すとは思わなかった


重たい体をずるずると引きずって、倦怠感と共に自席へ着く


ハルヒがまだ来てないな…トイレか?


「おはよう、キョン。それ、誰に貰ったの?谷口がショックを受けて飛び出して行ったけど。」


頬杖をついて始業のベルを待っていた俺に話しかけてきたのは国木田だった


貰う?…なんの話だ?


「すまん、なんの話をしているんだ?」


「え?それだよ、その袋。誰かから貰ったんでしょう?」


なんだ、この漫画のことか。

この袋のどこが国木田の興味をそそったのかはよくわからないが、早く答えろと言わんばかりの国木田の態度に本当のことを伝える

「これは貰ったものじゃないぞ。古泉に渡すものだ。」

「え……」

国木田が小さく間抜けな声をあげた。
なんだ、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して。


「ほんとに古泉君に渡すの…?」

「…?、あぁ。」


なんだ?俺が古泉と物を貸し借りすることは、そんなにも国木田の想定外の出来事なのだろうか?


疑問に思いはしたものの、三冊分の漫画のせいでだるさ三割増しである今、あまり言葉を発したくはなくて放っておくことにした


「あ…キョン!古泉くんが来ているよ。」

国木田の少し弾んだ声に違和感を覚えつつも教室の入口へ視線を移すと、にこりと微笑む古泉と目が合う


「なんだ、また辞書か?どうしてこんなにも毎日辞書を忘れてくるのか甚だ疑問だね。」


すいません、と古泉は困ったように笑うが、心から申し訳ないと思ってないだろ、お前。


「優等生は毎日家で辞書を使うのか?大変なこったな。」


「すいません。でも、憎まれ口を叩きながらも毎回貸してくれる貴方には心から感謝しているんですよ?」

へらへらと距離を詰めてくる古泉に、気だるさも手伝っていつも以上に深い溜め息が出る

「お前な、これ以上俺の気分を害したらこれ、渡さんぞ。」

「……え…。」

俺は机に視線を落として古泉と会話をしていたのでこいつの表情は見ていなかったのだが、せっかく漫画の入った袋を差し出しているというのに驚いたような声をあげるだけでなんの返答も寄越さない古泉を不振に思って顔を上げる


俺の視界に入ってきたのは顔を赤らめて俺を見つめる古泉と、にこにこしている国木田だ

「これ……僕に、ですか?」

なんだ、こいつ声震えてないか?
というか、顔を赤らめるな気持ちが悪い!


「…あぁ。」

古泉のいつも以上の気持ち悪さに眉間にシワを寄せつつ返事をすると、より一層距離を詰められる


ちょっ、この距離はさすがに異常だぞ!

周りのクラスメイトがちらほらと俺たちを気にしだした頃、やっと俺は常套句を繰り出した

「おい!顔がちか…!」「一限…僕と一緒にさぼりませんか…?」

「は…?」

俺がすっとんきょうな声をあげるとより一層顔を赤くした古泉が小声でぼそぼそと話し始める

「あの…堪え性がないと言われてしまうかもしれませんが、僕としては本当に嬉しくて…今すぐ貴方を抱き締めたいという思いでいっぱいなのです…だから…」

「待て待て!お前そんなに嬉しかったのか?だが、俺は感謝の気持ちだけで十分だ。だからさっさと教室に帰れ!」

今日のこいつは本気で異常だ。抱き締めたい?勘弁してくれ!

ずいっと後退り古泉と距離をとると、今までに見たこともないような情けない顔で腕をがっと掴まれる

「ちょっ…と、待ってください!本当に嬉しくて、まさかキョンくんからこれを頂けるとは思っていなかったので…!」

小声で、でも必死ですがるようにそう言われて、意味が全く理解できない


「……お前、なに言ってんだ?全く理解できん。というか、それ、お前にくれてやったわけじゃないぞ?ちゃんと返せよ。」

なにやら必死な古泉に若干ひきつつもそう言い放つと今度は古泉の表情にハテナが浮かぶ

「え…と、それはお返し、という意味で捉えても、……!」

古泉は困惑したように途中までそう言うと、急にはっとしたように袋をがさがさと開けて中を確認する


中を見るなり目を見開いて、気まずそうな顔であからさまにがっかりされればいい気はしない

おいおい。俺がせっかく持ってきてやったのにその顔はないんじゃないのか?

文句の一つも言ってやろうかと思ったのだが、急に古泉が一言謝って走り去って行ったため、それは叶わなかった


「あーあ、キョン。古泉くんがかわいそうだよ。」


「なんだ?俺が悪いのか?」


そう言えば国木田は深い溜め息をついて自分の席へ帰っていった


…なんなんだよ、古泉も国木田も。俺は漫画を持ってきてやっただけじゃないか。
…あ、あいつ辞書忘れて行ったな…


はぁ、と溜め息をついて、次借りに来たときにはジュースの一本でも奢らせようと思った


まったく…今日もどうせ借りに来ると思って辞書に板チョコ挟んどいてやったっていうのに…やれやれ。


***

大幅に遅れたバレンタイン作品w
キョンと会うためにわざと辞書を忘れてくる古泉はいじらしいと思います///
私はクラスで誰にもあげずもらいっぱなしでした。
おいしかったです^^

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