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小説
[かわいくねーから] 素直めキョンくん


「知ってるっ?二の腕と胸の柔らかさっておんなじらしいのよ!
ちょっとみくるちゃん、二の腕出しなさい!悪いようにはしないからっ…!」


「ふぇっ!!やっ…やめて下さぁい…っ…!」


「うわっ!柔らかいわねぇ〜!!
ちょっと、古泉くんも触ってみる?」


「いえ、僕は……」


「いいから触りなさいっ!!」


いつもと変わらない部室の中、相変わらずハルヒは嫌がる朝比奈さんに無理強いをしていた


いつもと何も変わらない。ただ、俺と古泉がゲームをしていないというだけの話だ


おい、古泉。ゲームもしないで朝比奈さんの二の腕を触って、なにをへらへら笑ってるんだ。


古泉の笑顔が今日はやけに俺の機嫌を損ね、俺は眉間にシワを寄せるとフイと扉の方に視線を逸らした




[かわいくねーから]




「ちょっ…!、古泉!!料理中だぞ!なにしてんだ…!!」


古泉の家でいつものように夕飯を作っていると、急に古泉に二の腕を掴まれた


「危ねぇな!なにしてんだよ、お前…」


古泉は何も言わずに俺の二の腕を揉んでいる
しばらくして、なるほど、と一言もらす


なんだよ…朝比奈さんと比べてんのか……?
そんなの、朝比奈さんの方が柔らかいに決まって…、っ……


「離せっ!!機関のレポートはどうしたんだ!?さっさとそっちを終わらせろよ!」


ぐいと古泉の手を払いのけて睨み付ける
ほんと、なにへらへらしてやがんだ、お前は。


にやけた面のままソファへと戻って行く古泉の背中を睨み付けたままでいると、古泉がくるりと俺の方を振り返る


「案外、硬いですね。」


「っ…!!」


あぁ、やっぱりな。
がっかりしただろ、硬くてさ。


「……どうせ、かわいくねーよ…。」


古泉には聞こえないようにぼそりと呟く
なんとなく朝比奈さんにイライラして、でも朝比奈さんは絶対何も悪くなくて、俺は無心で料理を作る手を動かしていた


――――――――――――――――――――


湯船で自分の二の腕を触ってみる


まぁ、大して筋肉がついているという訳でもないが、男子高校生としては並みの硬さだと思う


決して柔らかいという形容に当てはまるようなものではない


はぁ、と大きな溜め息をつく


そりゃあ俺は男で朝比奈さんは女の子だ


性別という決定的なハンデがある以上、朝比奈さんと俺の二の腕を比べるなんて馬鹿げた話だということは自分でも気づいているさ。でも……


「やっぱ、女の子の方がいいよな……」


もう一度大きな溜め息をついて、自分のひじから肩に向かってぎゅっぎゅっと確かめるように触ってゆく


わきの下辺りが少しだけ柔らかいような気がして、次古泉が触ってきたときにはちょうどこの辺りだったらいいな、なんて思いが浮かんできたが、馬鹿馬鹿しいと思い両手を湯船にゆっくりと沈めた


――――――――――――――――――――


「…キョンくん?やけに静かですが大丈夫ですか?」


「古泉…?」


「あぁ、いや、湯船で眠っておられるんじゃないかと少し心配になったので。
いいですよ、ゆっくりつかって下さい。」


「いや、もうあがるさ。」


少し風呂場で考え過ぎたみたいだな…
ほんの少しだが眠気も襲ってきたようだ。さっきまで悩んでいたことさえ少し忘れてしまいそうになる


ぐっと立ち上がって俺が風呂のドアを開けたのと、古泉が脱衣場から出ていこうとしたのはほぼ同時だった


「…っ!」

「キョンくんっ!!」


急に目の前が真っ白になって倒れかけ、とっさに古泉に抱き止められる


あぁ、立ちくらみだな。俺はよっぽど長く浴槽につかっていたらしい


「っ…キョンくん…っ?大丈夫ですか…?」


古泉が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる


ただの立ちくらみだしもう大丈夫なんだが、古泉が俺を支えるために掴んでいるのが、さっき俺が多少柔らいんじゃないかと思ったわきの下辺りだったから、何も言わないで視線を逸らした


古泉は……ちょっとでも、柔らかいと思ってくれただろうか…?


「……柔らかいか?………」


「え…?なんですか?」


「古泉が今掴んでるとこ………」


「ここ…ですか?ま、まぁ、はい。えと……キョンくん、…?」


古泉は、困惑したような表情で俺の顔をまたも覗き込んでくる


あぁ、その様子じゃ柔らかくもなかったんだろう。
柔らかいなんて思いもしなかった部分を、柔らかいか、なんて急に尋ねられたもんだから、困惑しているんだな


「ごめんな…柔らかくなくて……俺、…朝比奈さんみたいに…」


言ってる途中で目に涙が浮かんできた


「ごめっ……」


途端にぎゅっと古泉に抱き締められる


「あーもう!!どうしてそんなに可愛らしいんですか…!」


…は?


「僕がキョンくんの二の腕よりも朝比奈さんの二の腕の方がいい、なんて言うと思ったんですか?
キョンくんの二の腕は、硬いから可愛らしいんですよ?だって、普通に筋肉もついていて、押し退けようと思えば僕のことなんてすぐに拒めるはずなのにそうしたことは一度もない。それってキョンくんが僕を受け入れてくれているという証拠じゃないですか?」


まぁ、柔らかかったらそれはそれで可愛らしいんですけど。


そう言って古泉は本当に嬉しそうに笑う


なっ…なんだよ……
古泉、それは違うぞ。本気で拒んだって、敵わないだけだ…、というか、誤解がとけた途端急に今の状況やさっきまでの自分の思考回路や言動が恥ずかしくなってくる


「ちょっ…!離せ、古泉っ!!もう平気だから、ただの立ちくらみだから!」


「ふふふ、涙まで流して。そんなに嫉妬して下さったんですか?」


な…!んなわけあるか!!これは風呂の水滴だ!


「うるせぇ!お前は一生朝比奈さんの二の腕触ってろ!!」




「……キョンくん…?」

「は…?キョン……?」

「ふぇぇっ…キョンくん、どうしたんですかぁ…っ、?」



…………………へ?
ハ、ハルヒ?あああ、朝比奈さんの声もしたよな?
え?っていうかここ、部室か!?


視界には部室の扉が飛び込んできて、ぐるりと振り返れば驚いた様子のハルヒや古泉、完全に怯えている朝比奈さんや平然と本を読んでいる長門がいる


「なに急にキレてんのよキョン…」


「へ…あ、おっ、俺、なんか言ったか…?」


「言ったわよ、大きな声ではっきりと。
『うるせぇ!お前は一生朝比奈さんの二の腕触ってろ!!』って。…古泉くんに言ったの?」


お…、俺は、もしかして……夢見て……!?


ふっと目が合った長門が、コクリと頷いたのが何よりもの証拠だった


古泉が朝比奈さんの二の腕を触ってへらへらしていることが気にくわなくて気づけばふて寝しており、あんな夢を見てその上あんな寝言まで言ってしまうとは、我ながらフォローのしようがない


「やっ…!あっ、あの、俺寝言言っててっ!!ごめんなさい朝比奈さん!」


「寝言…ですか。どのような夢を御覧になっていたのか、よろしければ僕に教えて頂けませんか?」


「うるさいっ!!お前は今黙ってろ!」


この後、古泉のマンションで夢の内容を一部始終吐かされ、翌日俺の腰が使い物にならなくなったのは言うまでもない


ほんと、いい加減にしろよ、畜生………



***



こういう終わり方好きなんです(・ω・*)

私も二の腕がどうしようもないくらいに硬いです。

最後まで読んで頂いてありがとうございました!

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