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堕ちた月の音
002

小さな月の愛し子(乱菊)




長い銀の髪。

大きな金の瞳。

例えるならその色彩は、季節によって色をかえる月…のような。



「こんにちは。乱菊よ」

「らん、ぎ…?」

「く、よ」



夏は金に、冬は銀に輝く夜空の女王に例えるには、この少女はあまりにも可愛らしすぎるけれど。



「らんぎくなんだってー。おねぇさんのおなまえながいねーおにいちゃん」



ふにゃりと笑って自分と同じ銀髪を見上げるその仕種は、誰が見ても愛らしい。


それは見上げられた銀髪も同じだったらしく、微かに頬をゆるませた。


(あの隊長が笑ったわ…)


さっきの笑顔、写真にして売ったら儲かるわね、なんて思いながら自分の机につく。



「んー…とぉ。らんちゃん」

「らんちゃん?」

「おねぇちゃんのおなまえ、らんぎくだから、らんちゃん」



にこっと笑って膝から飛び降りた、愛らしい小さな月は、トコトコとこちらに駆け寄ってきて。



「えっとねーさらのおなまえ、さらっていうの」



にこっと笑い、自分の名前を二回繰り返した。



「んもー可愛いわね!!さらって漢字はどう書くの?」

「かんじ?」



聞き慣れない単語だったのか、くてんと首を傾げて、自分と同じ銀髪を振り返る。



「…これだ」



ゴソゴソと懐から取り出された紙には、殴り書きのような字でなにかが書かれていた。



「…なんです?これ」

「結城紗羅」

「……さらのフルネームですか?」

「あぁ」



その紙に書かれたものは、もはや文字ではない。

悶え苦しむミミズのような線が、なにかの形をかたどっている…ようにしか見えない。

どこをどう見ても。



「…隊長、よくこんなの読めましたね」

「………気合いだ」



おそらく紗羅が書いたんだろうこの暗号を、見事解読したこの隊長に、ぜひとも拍手を送りたい。



「それで隊長。この子どうしたんですか」



娘でも妹でもないというのなら、この子は一体誰なのか。


フルネームが分かった以上、次に大切なのはそこだ。



「…拾った」

「……は?拾った?」

「昨晩な。瀞霊廷の外れに一人でいた」

「…」



ちょこちょこと自分のところに戻ってきた小さな銀髪を抱き上げて、さっきと同じように膝にのせる自分の上官に、しばし絶句。



(……まさか前者じゃなくて後者だったなんて、さすがに思わなかったわ)



そもそもこの瀞霊廷に捨て子なんていないはず。

流魂街であるならまだしも、ここは限られた者しか入れない瀞霊廷。

流魂街から入るには、屈強な門番のいる門を通らなければならない。



「…それで、隊長は紗羅を拾ってこれからどうするんです?親捜しなら手伝いますよ」



もし瀞霊廷内に親がいるなら、きっと今頃向こうも探しているだろう。


この広い瀞霊廷のなか、小さな我が子を探すのはかなり大変だ。



「…いや、その必要はねぇ」

「え?」

「…こいつには記憶がねぇらしくてな」



小さな銀髪をぽんぽんと撫でて、再び筆をとる。

止まることなくスラスラと文字を綴る筆先を目で追う紗羅の姿は、幼いというより、まだあどけない。




「…記憶喪失、ですか?」


「あぁ」


「なら尚さら頑張って探さなきゃダメじゃないですか!!」




こんな小さな子を親と離れ離れにさせておくなんてだめだ。



「記憶がないなら、こっちがしっかり探さないと…!!」


「親捜しなら実行済みだ。こいつの容姿、名前、年齢、すべてをデータと照らし合わせた」



それでも親は見つからなかった、と続けた隊長にどう返そうか迷う。


そうしているうちに話題の的の本人が「ねーねぇおにーちゃん」と沈黙を破った。







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あきゅろす。
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