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堕ちた月の音
001

見慣れないその姿(乱菊)




瀞霊廷には色とりどりの頭が数多く存在する。


赤やらピンクやら白やら金やら。


ただ、そうは言っても、紗羅が来るまで自分以外の銀髪なんて見たことがなかったから。


やっぱり…ほんの少しの、違和感。



「………た」



太陽は高くのぼり、朝というよりは昼といったほうが相応しい午前十一時半。

いつものごとく、昼になってようやく隊舎に姿を現した金髪の副隊長は、隊主室の扉を開いた瞬間固まった。


目の前に広がった、ありえない光景に。



「たたたたたた隊長!!」

「…なんだ松本」



スラスラと走る筆を止めることなくチラリと視線を投げた、小さな銀髪。

眉間に微かによったシワも、年のわりに落ち着いた雰囲気も、いつもと変わらない。

ただいつもと違うのは、その膝の上。



「おにーちゃん、おきゃくさんー」


ちょこんと座った、さらに小さな銀髪の少女。

花柄の浴衣を着て黄色の帯をしめたその姿は、どこからどう見ても死神ではない。



(…って、たとえ死神でも隊長の膝の上に座るなんて出来ないわ)



もしそれが出来るとしたら、それはある意味、かなりの功績だ。


間違いなく、生涯自慢できる出来事になるだろう。



となると、考えられる道は二つ。



一、家族。

二、拾い子。



意外に面倒見のいい隊長の性格から考えて、後者も決して可能性がないわけではないが、前者のほうが可能性はぐーんと高い。

何せ二人の頭はどちらも銀髪だ。

大きな瞳もどことなく似ている。

違うといえばその色だけ。



…ということは。



お兄ちゃん、と呼んでいたからには年の離れた妹か。

それとも、いつの間にかできていた…



「隠し子ですか!?」

「…なわけねぇだろ」



……うむ、どうやら違うらしい。


大きな翡翠に思いっきり睨まれて、

(さすがに違うか…)

とそっと胸を撫で下ろした。



地位、実力、外見、性格。

すべてが申し分ないこの隊長は、とにかくモテる。

バレンタインのチョコでは山が築けるほど、モテてモテてモテまくる。


ゆえに、過去付き合っていた女の一人や二人、いないほうがおかしい。

しかし、この年でもう子供なんていたら、さすがにちょっと…外聞的に悪い。



護廷十三隊の沽券に関わる。



「でも隊長って妹いませんでしたよね!?」

「お前は阿呆か」



今度は長いため息をつかれて、さらに首を傾げた。

(妹でも子供でもないって…じゃあこの子って一体何者?)

・・
あの鉄皮面の日番谷冬獅郎の膝に座ってケロっとしていられる人物なんて、なかなかいない。


いや、むしろいないと思っていた。

今日のこの光景を見るまでは。



「んね、おねーさん。おねぇさんだぁれ?」



神童と呼ばれる十番隊隊長日番谷冬獅郎の膝のうえに座るという、未だかつてない偉業を成し遂げた、ただ者じゃないその少女は。


大きな瞳をキョトンとさせて、声を発した。







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