堕ちた月の音
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夢と現の狭間で
…いくらなんでも、夢にしてしまうにはリアルすぎると思った。
いやしかし、これを現実だと思うには証拠がなさすぎる。
何よりも、今目の前にいる紗羅の姿がまずおかしい。
…なんで。
なんでこんなにちっせぇんだ…!?
「おにーちゃあん」
ころんと布団に転がって手足をばたつかせる紗羅…もとい、紗羅だと思われる小さな幼女。
艶やかな長い銀髪も、透き通る金の瞳もそのままに、サイズだけがかなり小さくなった――とでも言っておこう。
…な、何があった!?
何が起きた!?
昨日は俺が半ばむりやり布団に引き入れて…そんで。
それがどーなったらこんな展開になんだよ!?
「ぬ。おにぃちゃ…?」
「…やわらけぇな」
むにむにと頬に触れてみるも、いつもみたいに逃げられないあたり、これは夢だと確信していい。
そもそも紗羅が、俺に向かってこんなことを言うわけがない。
いや、言ったら逆に驚きものだ。
この頃やっと、照れずに目をみて名前を呼んでくれるようになったばかりだというのに。
「…紗羅?」
「ん〜」
「眠いのか」
「む。へいきぃ」
こしこしと目をこするその姿がまた可愛らしい。
「じゃあ起きろ。隊舎行くぞ」
「ぬ、たいしゃー?」
「あぁ。十番隊隊舎だ」
うちの第三席である紗羅がこんな状態だとすると、ここでは誰が第三席を務めているのか。
…今更だがかなり気になる。
「髪、どうすんだ」
「あのねー、うさぎさんみたいにふたつにするのー」
馴れない手つきで長い銀の髪に櫛をいれ、丁寧に梳かす。
結い紐で髪を二つに結んだ紗羅に、頬がゆるむのを止められなかった。
…髪は背中に流してるところしか見たことがなかったが、結んでるのもいいな。
いつも見れない分、新鮮。
「おにーちゃん。さら、だっこー」
身支度を終えて、朝食も食べ終わった頃。
足元にじゃれつく紗羅を抱き上げれば、きゃっきゃと楽しそうに笑った。
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