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堕ちた月の音
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雪の向こうに




冷たい雨が降っていたことは覚えてる。


いつもなら暗い夜空に輝く大きな満月が、その日は見えなかったことも。




死にたくない。


死にたくない。




だけど、あたしにもう生きることは許されない。


死んでしまう。


いなくなってしまう。


だって、逃れられない運命に逆らおうとしたから。


叶うはずのない想いを抱きつづけたから。


だからこれは当然の報い、…なのかもしれない。




「…ねぇ、あたし死んじゃう?」


「あぁ」




雨に濡れて、視界がぼやける。


ぼんやりと輪郭を形作るのは黒い着物。


それから、白い羽織り。




「死ぬのやだよ、怖い――…死神さん」


「…喋るな紗羅。もう、眠れ」




嫌。


死にたくないのに。


まだあなたと一緒にいたいのに。


まだ何もかも…始まったばかりなのに。




それでも、誰かの温かい手に頭を撫でられてそっと目を閉じた。

ゆっくりと意識は遠退いて、最終的にそれはプっツリと途切れてしまう。




「…じゃあな」




意識の狭間で聞いた言葉。


涙が流れたかどうかは覚えてない。


ただ、ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚に苦しみを覚えた。




「……俺は、お前のことが」




言いかけた言葉。


躊躇うような沈黙のあと、黙ってその温もりは離れていく。




やだ…


行かないで。


まだ、伝えてもいないのに。




それ以降の記憶を、あたしは持っていない。







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あきゅろす。
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