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かけがえのない貴方へ






あの様子じゃ、飯島は勝手に壊れていくだろう。
聞きたい事を絞り出してしまえば後は用は無い。



そして、俺は優李が飛び降りたマンションへ向かった。

ここにも証拠が無いか調べる為だ。
目撃者もいなかったと言う。
本当なのか?

俺は最上階から落ちた優李の場所に来た。
少しまだ血が残っている。

優李はどんな思いで飛び降りたんだろう…。
考えるだけで胸が苦しい。




ふと、何かが目に入る。

マンションの上を眺めながら突っ立ている人物。

薄暗くて、あまり見えないが静かな住宅街でその人物は小さく囁いた。




「本当に自殺…だったのかな?」



――…えっ。

耳を疑った。
優李の事を言っているのか?
まさか…な。


そいつは、それだけを言うと幽霊のように闇の中に消えて行った。

追えば何か手掛かりが掴めたのかもしれないが、金縛りのような状態になり動く事が出来なかった。




一体アイツは――

そして、言った言葉…。

『本当に自殺…だったのかな?』

その言葉だけが脳裏に焼き付いて離れない。






























――――


翌日、学校に行くとクラス中で飯島の噂が飛び交っていた。


「アイツ昨日事故って意識不明らしいぜっ!?」

「マジでっ!怖っ!」


命は助かったのか。
意識不明なら話す事も無理だろうな。

チラッと景山と笹山を見た。

「飯島事故ったのか。」

景山がため息をついて言った。

「良かったんじゃねーの?アイツ口軽いからアノ事誰かにチクられたりしたら厄介じゃん。御愁傷様だぜ」

ハハハッ、と二人の笑い声が教室に冴え渡る。



景山、笹山――

絶対にお前らを

地獄に堕としてやる。


絶対にっ―――。












学校も終わり、今日は主犯でもあるだろう景山を尾行した。
19時まで笹山と遊び一人になった瞬間を見逃さず奴に忍びよる。



「景山君」

得意のポーカーフェイスで近付く。

「なに?」
面倒くさそうに振り返る景山。

「三宅について聞きたいんだけど」
真っ直ぐに景山の目を見た。
目をみれば、嘘か真実かぐらい分かる。

「三宅?」

「あぁ」

「――誰、だっけ?」

とぼけて返事をする景山に足の爪先から頭のてっぺんまで血が昇り怒らずにはいられない。

完全に頭に血が上がった俺は気付けば奴の胸ぐらを掴んでいた。



「ふざけんなよっ!!!知らないだと!」

いきなりキレた俺に景山は驚く事も無く冷静に言った。

「お前、冗談も通じねーの?死んだ奴なんか知るかよ」

今すぐコイツを殺してやりたい!
しかし、証拠も無いのに殺しては何もならない。


「三宅は虐められてたんだ!お前にっ!!」

根拠も無い嘘でかまをかけるしか無かった。
奴は乗ってくれるだろうか?


「虐め?俺が?ハハッ。んなわけ、ねーじゃん。なんなら他の奴にでも聞くか?」

自慢気に話す景山に胸ぐらを掴む手に力が入る。

どうせ、コイツに脅されて口を開こうとはしないだろう皆…。

担任は、上からの圧力で口封じされている!


チクショッウ!!



「本当の事言えよっ!」
揺さ振って聞き出そうとするが、奴は笑ってるだけ。


「三宅も天国で楽しんでんじゃねー?アハハ――」


景山を殴る寸前で拳を止めていた。

息が上がり怒り狂ってる俺に景山は更に言う。



「世の中は悪が勝つんだよ」

そんなの、俺が絶対許さない!


「万が一、俺が虐めたとしても表沙汰になることなんて無い」

「何故だっ!!」

「警視庁の官僚トップが父親だからだよ」

そう言って、掴んでいた腕を払われる。


「…だから?だから、揉み消してくれるってか!?」
それでも怒りがおさまらない。
親が偉けりゃ、何やってもいいだと?

「そうだよ。オヤジには誰も逆らえないんだよ。校長も、弁護士もな。クハハッ。分かったなら二度目はないぜ?その王子様みたいな面、ぐちゃぐちゃにしてやるからよ」

ヒャハハッ、と声を上げながら去って行く景山を唇を噛み締めながら、何も出来ない己に苛立ちが込み上げて来る。


















悔しさで頭がいっぱいだった。
だけど諦めるつもりは無い。

この前会った人物が気になって俺はまたあの場所へとたどり着いた。

そう。
優李が飛び降りたマンションだ。

時刻も前と同じぐらいだった。
もしかして…なんて事が脳裏に浮かぶ。

聞けば、何かを知っているかもしれない。

だから、もう一度会いたいんだ――。








まさかとは、思った。
よく見えないが、またもや屋上を見上げている。
俺はそいつが現れたのを見ると急いで駆け寄った。



「おいっ!」
大きな声で奴を呼び止める。
そいつは、こちらを向き、電灯の光で顔が少し見えた。

色白で黒髪で細い男。
服はパジャマらしき物を着ていた。

「貴方は?」
透き通った声に俺は返事をした。

「北川蒼樹。アンタに聞きたい事があるんだ」

「…」
彼は黙ったままだ。

「三宅優李を知っているか?このマンションから飛び降り自殺したんだ」

彼の目の前まで来ると全てが光で映り出される。

「…知らない。」

「嘘つくなっ!」

俺は奴の腕を引っ張った。
細くて力いっぱい握ったら折れるんじゃないかってくらいの。
だけど余裕の無い今の俺にはそんなこと、どうだって良かった。

「…腕痛い。離して」

「言うまで離さない!」

「本当…やめっ、時間が―…ゴホッ、ゲホッ……」

いきなり、そいつは倒れこんだ。
演技なんかじゃなく、顔を真っ青にして。


「…あっ!桃弥君!また病室から抜け出して!だっ…大丈夫?!」

看護師の格好をした女性と医師のような白衣を着た男女2人がこちらに走って来た。


「まずい。発作が出ている。早く車に乗せて病院へ!」
白衣を着た医師がそいつを抱える。

「分かりました!急ぎましょう」


マズい。今ここで消えられたら全てが水の泡だ。
コイツにまだ聞きたい事が沢山残っている。

俺は咄嗟に嘘をつき、看護師らを止めた。

「待って下さい!俺、その人の友達なんです」

そう言うと医師は、分かったと言って一緒に車に乗せてくれた。
呼吸器を付けられながら、病院へと走って行く。















数十分経つと、都内の大きな大学病院に辿り着いた。
抱えられたまま、そいつは病室へ運ばれる。




「もう!毎回病室から抜け出さないで下さい」
看護師がそいつをベッドに乗せると、身体中に色々付けられモニター画面に数字が現れる。


「脈が速いわ。」
看護師が心配そうに言う。

「すみません…、コイツ病気なんですか?」

看護師が俺を見て絶句していた。

「貴方、友達なのに知らないんですか?桃弥君は末期の癌なんですよ」

「…えっ」

「今は体調が良いから安心だけど、いつ様態がおかしくなっても分からない現状なのに」


そうだったのか―…。
病気を抱えてまで、あのマンションに向かうのは理由があるのだろうか?






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