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「ダメ?」
「だめ!」
「…………」

 しばらく無言でシークを見つめた後、諦めたらしいリィは抱え直した相手の肩口に顔をうずめた。
 緊張したまま待ってはみたがそのまま動かない。

「……リィ?」
「…………」

 強引な、はずのに。
 自分の好きなように行動して。それなのに。
 有無を言わせなかったのは結局出会いのあの時だけだったのだと気付く。
 遠慮がちに回した手でリィの背を撫でた。
 逞しいとは言いがたい、むしろ男性にしては細い体。さすがに女性のような丸みや柔らかさは無いが、かと言って骨張っている訳でもない。
 いくら経っても動かない男の髪にそっと触れる。さらさらと流れるそれは少しひんやりしていた。

 愛しい、のだと。唐突に思う。

 今でも得体の知れないこの人が。
 本当はずっと前から気付いてしまっていたたくさんのこと。
 眠れない夜の温もりも。優しいなんて思いたくもないのに。
 止まったはずの涙が意に反してぽろぽろと溢れた。

「……子猫ちゃん? 何もしないってば」

 異変に気付いて顔をあげたリィが検討違いの言葉を寄越す。
 濡れた頬に唇を寄せる。そう。いつもの、流れるような自然な仕草で。

「……、ゃ」
「ん?」
「……ここじゃ、ヤダ…」
「…………」

 リィの反応を確認する余裕はない。口にしてしまった言葉は予想以上に気恥ずかしくて、再び俯き即座に後悔した。顔が熱い。視線を感じる。
 沈黙の時間は永遠に思えた。
 恐る恐る顔をあげる。
 そこにあった瞳はその人とは思えないほど澄んでいて。

「あ……」

 ぎゅうっと抱き締められた。
 それもほんの束の間。半ば抱えられるように立ち上がったシークの手を引きリィが歩きだす。

「リ、リィ……? どこに行くの」
「ホテル」
「!」

 二度目の直球。
 ここでなければ、そう言ったのは確かに自分なのだけど。
 俯いた顔をあげられなかった。



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