3 その人の腕の中はひどく懐かしくて。暖かくて。素直に顔を埋めた。 鉄骨剥き出しの壁に背を預けて座るリィにしがみついたままひとしきり泣くと、今度は恥ずかしさで顔をあげられない。 ――何でこんな泣けたんだろ。 自分でも自分の行動が理解不能だ。 「子猫ちゃん?」 突然呼ばれてハッと顔を上げる。 見上げたはずの黒い瞳は見えなかった。変わりに長い睫毛が視界の端で揺れた。 それもまた懐かしい温もり。 「ん……」 予想外に優しいことを知っている。息継ぎのために開かれた一瞬を見逃さず、口腔内を甘やかに蹂躙される。 目の奥が白く霞む中で異変に気付いた。 「……っ」 耳朶を甘噛みされるに至って違和感は確信に変わる。 そういえばリィの手が服の裾から入り込んでいるような。 「ままま待って待って待って」 動揺しながらリィの肩を押し身動ぐと、どこか不満げな瞳が見上げてくる。 素直に手を止めた男の行動に意外なものを感じながら、距離を置こうと後退った。 頻繁に唇を奪われてはいたがその先に進んだことはないし、進む素振りを見せられたこともない。 「えっと、リィ? あの……わっ」 後退る腕を取られて元の位置まで引き寄せられる。 黒い瞳は真っ直ぐこっちを見ていた。 「……子猫ちゃん」 「は、い……?」 「エッチしたい」 ストレートすぎる言葉に一瞬頭が真っ白になった。 [前へ][次へ] [戻る] |