12 優しく頭を撫でられてその名前を聞いた途端、なぜか一気に冷静さを取り戻した。 「……寂、しい?」 「違うの? そう見えたけど」 寂しいのだろうか。 この泣きたいような名前の分からない感情は、あの男がいないから? 「寂しい、のかな?」 ポツリとこぼした疑問に、頭の上で安里が微かに笑う。 それを感じてまだ安里の腕の中にいることを思い出した。 「座ろうか」 「うん……」 再び顔に熱が集まって、俯いたままソファに腰掛けた。 シークを解放した安里はそのままキッチンへ向かい。 そこから漂ってきた甘い香りが気分を落ち着かせた。 「シークが来た日、やっぱり夜君は起きてて」 「その時もコレ作ってくれた……」 「うん。その時ね、シークは祈ってるんだと思った。実際は違ったみたいだけど」 あのとき何を考えていたのか、もう覚えていない。 ただ何も考えず露天を見ていた気がする。 「“リィが無事でありますように”」 「?」 「そう見えた。別れ際、すごい寂しそうな顔してたし」 「そ、そうだったかな……」 そんな顔をしていただろうか。 なんだか恥ずかしい。 心細かったのは確かだけれど。 [前へ][次へ] [戻る] |