3 「どうぞ」 戻ってきた安里の手にはマグカップが二つ。 甘い香りにつられて手を伸ばす。 蜂蜜入りのホットミルク。 「ありがとう」 しばらく無言で暖かいミルクを舐めていた。 「……安里さんも眠れないの?」 「うん? そうじゃないけど……いつも寝るのは明け方だから」 「そうなんですか」 「外見てぼーっとしてたりする」 安里が向けた視線を追って、ついさっきまで立っていた窓を振り返る。 星のない黒い空が明るいのネオンに染まっていた。 「願い事でもしてたの?」 「え?」 「祈ってるみたいに見えたから」 胸の前に手を組んで。一心に願いを。 「あー、違うんです。ただ見てただけ。コレは、癖で」 安里の言葉に苦笑する。 同族達にも信仰する宗教があったのか。シークには分からない。 彼が生まれる随分前に祖先達は汚染が進んだ故郷を棄てた。そう聞いた。 外見上の特徴が同じでも、今ではルーツが同じ他種族としか感じられない。 様々な星に移り住み、散ってしまった一族。 記憶の隅に、微かに残る両親は似たような外見だった気がする。 「つい握りしめちゃうんです、コレ」 [前へ][次へ] [戻る] |