2 道端にも昼間は無かった露天が並ぶ。 独特の空気。 薄いガラスの向こう側は、ひんやりした室内と対照的だ。 無造作に置かれた書類の束もほとんど隠れた家具も、見慣れないせいかどこか作り物めいているのに。 通りは胡散臭い生活感に溢れている。 無意識に、服の上から幾何学模様のペンダントを握った。 手の中で力強く脈打つ。 柔らかい温もりが伝わり、訳の分からない微かな不安が霧散する。 「……シーク?」 「!」 突然の声に息を飲んだ。一拍遅れて心臓がドクドクと動き始める。 手を胸に当てた祈るようなポーズのまま、ぎこちなく振り向いた先には、黒いシルエットしか見えなかった。 「ごめん、驚いた?」 シルエットが壁に手を伸ばすと仄かな灯りが灯る。安里の姿が浮かび上がる。 オレンジ色の抑えられた光でも闇に慣れた目には眩しくて、目を細めた。 「眠れない?」 「なんか、懐かしくて」 ほろっと笑ったシークに安里が不思議そうな顔をする。 「懐かしい?」 「このザワザワした感じが」 「騒がしいよね、ココ。嫌いじゃないけど」 微笑んでキッチンに消える安里をぼんやり眺めた。 [前へ][次へ] [戻る] |