4 「……どちら様?」 気の抜けたようなジェスの声に、パスタをつついていた安里も顔を上げた。 「誰?」 「知らん。かわいー子が立ってるぞ。お前の客か?」 「お客にここを教える訳ないでしょう」 ジェスの後ろからパネルを覗き込むと、おろおろと落ち着かない様子で、不安げに揺れる瞳が映し出されていた。 安里にも見覚えが無い。 「知らないな」 安里の反応を見ていたジェスの瞳が「追い返すか?」そう聞いている。 頼りない様子だからといって、無害だとは限らない。 ここはそういう街だ。 「君は……」 誰? そう続ける前に画面がそれまで見えなかった人物を映す。 『入れろよ安里』 深い闇色の瞳。 「げ。リィ」 ジェスがさも嫌そうな声を漏らす。 時には手を組む二人だが、そこはやはり商売敵。 「今開けるよ」 安里は動かなくなったジェスを押しのけてパネルに触れると、入り口の鍵を解除した。 程なくして相変わらず黒ずくめの男が姿を現す。 知り合ってから随分経つが、お互いの家を訪ねたことは無い。 時々仕事で組むジェスと違い、安里はリィに会うこと自体久し振りだった。 [前へ][次へ] [戻る] |