[通常モード] [URL送信]


 瓶からつまみ上げた脱脂綿がキツい消毒薬の匂いを放つ。
 それなりに沁みて思わず顔をしかめると、ルキオが小さく笑った。
 節くれだった手が見かけによらず器用に包帯をまいていく。

「まぁキズが塞がるまではここにいるといい」
「え、でも……」
「なんだ? 急いでるのか?」
「いえあの、あまりお金、無くて……治療費とか………」

 自然と歯切れの悪い口振りになってしまう。
 世話になっていた見せ物小屋を離れて数年、各地を転々としている。
 その日暮らしだ。
 どうしても金がない時は――人を殺したことはないにしても――持ち物を奪って逃げたりもしてきた。
 生きて、いくために。
 この街に入ったのはつい二日ほど前で、路銀は底をつき始めている。もちろん収入源たる職はない。

「だから……」
「気にすんな。リィから取る」
「あ……」

 ワシャワシャ髪をかきまわされた。
 ルキオのイヤミのない雰囲気と大らかな口調は、相手を安心させる。
 けれど、くたびれた白衣や乱れた髪からお世辞にも名医には見えなかった。
 咬みつぶされた煙草は火がついていなくて、くわえるのが癖なのかもしれない。
 信用してもいいのだろうか。



[前へ][次へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!