7 瓶からつまみ上げた脱脂綿がキツい消毒薬の匂いを放つ。 それなりに沁みて思わず顔をしかめると、ルキオが小さく笑った。 節くれだった手が見かけによらず器用に包帯をまいていく。 「まぁキズが塞がるまではここにいるといい」 「え、でも……」 「なんだ? 急いでるのか?」 「いえあの、あまりお金、無くて……治療費とか………」 自然と歯切れの悪い口振りになってしまう。 世話になっていた見せ物小屋を離れて数年、各地を転々としている。 その日暮らしだ。 どうしても金がない時は――人を殺したことはないにしても――持ち物を奪って逃げたりもしてきた。 生きて、いくために。 この街に入ったのはつい二日ほど前で、路銀は底をつき始めている。もちろん収入源たる職はない。 「だから……」 「気にすんな。リィから取る」 「あ……」 ワシャワシャ髪をかきまわされた。 ルキオのイヤミのない雰囲気と大らかな口調は、相手を安心させる。 けれど、くたびれた白衣や乱れた髪からお世辞にも名医には見えなかった。 咬みつぶされた煙草は火がついていなくて、くわえるのが癖なのかもしれない。 信用してもいいのだろうか。 [前へ][次へ] [戻る] |