D:芽生えの季節
「いつも同じ服で、君には季節感というものがないな、エルシャール。」
「……君にだけは、言われたくないよ。」
世はすっかり春だと言うのに、なんだかおかしな会話である。
ふうわりとした春の空気は部屋の中にも満ちてしまっていて、とにかく二人して何をするでもなく、ぽつりぽつりと話しているのだった。
日差しだってぽかぽかと心地好い。
「失礼な物言いだ。せっかく、君に良い土産を持ってきたというのに。」
「私に土産かい?それは珍しいね。」
少し不機嫌に言うデスコールに対して、レイトンは本当に意外そうに尋ねた。
彼はいつもふらりと現れてふらりと去るのだから無理もない。
「ああ、君はコレが何かわかるかな。」
そう言って、彼は懐から小さなしおりを取り出した。
そこには押し花にされた可愛らしい花がひとつ、ふたつ。
「へえ…ますます珍しいね。これは桜じゃないか。」
「ああ。」
それはする、とレイトンに手渡される。
彼は大層気に入ったのか、手の中のしおりをしげしげとながめた。
「たまたま手に入ってな。なかなかに春らしいだろう。」
その反応を見たデスコールは、少し得意げに続ける。
淡く色付いた花びらはあたたかい色をしていて、もう春だよ、囁いているようにも見えた。
「ああ、ありがとうデスコール。大切に使うよ。」
幸い私はよく本を読むしね。
そう言ってニコニコしながらお礼を言うのだが、デスコールはというと何も言わずにレイトンを見つめている。
何だろう?レイトンが不思議に思って口を開いた時だった。
「デスコール…?」
「――お礼なら、」
次の瞬間には、鼻先でふわりと彼の香りがした。
いつの間にか腰に回された手に優しく引き寄せられて、二人には隙間すらない。
レイトンは思わず、すう、と息をのんだ。
「――これで構わない。」
「……全く、君は…。」
呆れたようにため息をつきながら、レイトンは彼を抱きしめてぽすん、首元のファーに顔を埋めた。
それは真っ赤になった顔を見せない為であったが、そもそも身体全体が火照ってしまっているのだからあまり意味はないだろう。
「最初からこのつもりで持ってきたのなら、少し卑怯だよ、デスコール。」
「卑怯?ふふ、それは人聞きが悪いな。」
すぐそばで不平を述べるレイトンに対して、デスコールは楽しそうに微笑んだ。
ぎゅうう、抱きしめる力も強くなる。
「いいじゃないか、春は芽生えの季節だからな。」
そこまで言うと頭を引き寄せて、耳に直接囁いた。
(私への愛は芽生えたか?エルシャール。)
くすくすくす。
低くて甘い声が直に鼓膜を震わせて、やはり抱きしめたりするのではなかったと、レイトンはくらくらする頭でそんな事を考えたのだった。
※※※
6000hitフリーでした。
(配布期間は終了しています。)
少し季節は過ぎてしまいましたが桜ネタです。
管理人が春に浮かれてるのがまるわかりですな。
甘々デスレイは砂吐くくらいで良いと思います。
ベタだっていいじゃない!
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