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「いやぁー、おもしろかった。失礼しますって言ってるのに、態度と言葉が全然あってなかったよ」


「うるさいよ! それよりもアンタ……!」



自分の部屋の布団の上に座らせる。


そして自分はその前に正座する。


「はぁ……。アンタさ、この前金に困ってるって言ってたじゃないか。いいのかよ、こんなにしょっちゅう来て」


「うん、まぁね。春菊、見てて飽きないし」


「そういう問題じゃ……」


にこにこしてる智春を見てると、怒る気も失せてきた。



「俺はアンタの心配してるんだぞ? 俺、そんなに安くないし」


昔から綺麗だ、とは言われていたけど、最近は売り上げを争うぐらいに。

客層を見てても、いかにも実業家っぽい人が多いし。


「大丈夫だよ。心配しないで」


智春がおいでおいでをするので、自分も布団の上に座る。


「はい、仲直り」

手を握られる。

「……喧嘩してたわけでもないだろ」


でも、久々に会えて嬉しいのは俺も一緒で。

智春の好きなようにさせることにした。



「ねぇ、今日は泊まってくの?」


「うん。そうしようと思ってるけど、大丈夫?」


「俺はいいけど……」


そっちこそ、と続けそうになって、慌てて口をつぐむ。

居続けは、それなりにお代がかかる。


そう何度もお金の話をされたら、智春といえど気分を悪くするだろう。



「上着、脱いで。しわになっちゃうから」

「あぁ、ありがとう」


智春に対して、心配事が尽きることはない。


俺だって、智春が普通の客ならこんな心配なんかしないよ。



自分も着物を脱いで、真っ赤な襦袢一枚になった。


「渡辺様、寒くはないですか?」

わざと名字で呼ぶと、智春は笑った。


「名前で呼んでよ」


こうやって甘えてくるあたり、まだ若いよな。


「……智春」

呼んでやると、智春も俺の名前を呼んでくれた。


あくまで源氏名だけど。




客が居続けをする。

客と同じ布団に入る。


することは一つしかない。


むしろ遊郭なんて、することはこれしかないだろう。



けど、智春は違う。

普通の、他の客とは違う。



一度として、俺を抱いたりしなかった。


ただ、なにするでもなく話をして。


そして、ただ優しく抱きしめて眠ってくれた。



変な客。


だけど、俺が安心してそばにいられるのは、智春だからっていうのもあるんだと思う――…。






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