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二
「いやぁー、おもしろかった。失礼しますって言ってるのに、態度と言葉が全然あってなかったよ」
「うるさいよ! それよりもアンタ……!」
自分の部屋の布団の上に座らせる。
そして自分はその前に正座する。
「はぁ……。アンタさ、この前金に困ってるって言ってたじゃないか。いいのかよ、こんなにしょっちゅう来て」
「うん、まぁね。春菊、見てて飽きないし」
「そういう問題じゃ……」
にこにこしてる智春を見てると、怒る気も失せてきた。
「俺はアンタの心配してるんだぞ? 俺、そんなに安くないし」
昔から綺麗だ、とは言われていたけど、最近は売り上げを争うぐらいに。
客層を見てても、いかにも実業家っぽい人が多いし。
「大丈夫だよ。心配しないで」
智春がおいでおいでをするので、自分も布団の上に座る。
「はい、仲直り」
手を握られる。
「……喧嘩してたわけでもないだろ」
でも、久々に会えて嬉しいのは俺も一緒で。
智春の好きなようにさせることにした。
「ねぇ、今日は泊まってくの?」
「うん。そうしようと思ってるけど、大丈夫?」
「俺はいいけど……」
そっちこそ、と続けそうになって、慌てて口をつぐむ。
居続けは、それなりにお代がかかる。
そう何度もお金の話をされたら、智春といえど気分を悪くするだろう。
「上着、脱いで。しわになっちゃうから」
「あぁ、ありがとう」
智春に対して、心配事が尽きることはない。
俺だって、智春が普通の客ならこんな心配なんかしないよ。
自分も着物を脱いで、真っ赤な襦袢一枚になった。
「渡辺様、寒くはないですか?」
わざと名字で呼ぶと、智春は笑った。
「名前で呼んでよ」
こうやって甘えてくるあたり、まだ若いよな。
「……智春」
呼んでやると、智春も俺の名前を呼んでくれた。
あくまで源氏名だけど。
客が居続けをする。
客と同じ布団に入る。
することは一つしかない。
むしろ遊郭なんて、することはこれしかないだろう。
けど、智春は違う。
普通の、他の客とは違う。
一度として、俺を抱いたりしなかった。
ただ、なにするでもなく話をして。
そして、ただ優しく抱きしめて眠ってくれた。
変な客。
だけど、俺が安心してそばにいられるのは、智春だからっていうのもあるんだと思う――…。
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