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「……僕は、花月のところを一度も、只の使用人だと思ったことはないよ?」
二人の髪を、風が弄ぶ。
「初めて会った時から、ずっと好きだった」
「……な」
ゆるくかぶりを振る。
初めて会った時……?
もう10年も前の話。そんなはずない。
花月が鷹通のことを好きだというのに気が付いて、からかっているだけなんだ、きっと。
「何を仰っているのか僕には……」
「花月が、僕を嫌いというのなら……今来ている縁談を受けようと思っている」
「え……!?」
縁談……!?
嫁をとる……どこかの女性と結婚する……!?
前々から何度も縁談は来ていた。
いつも鷹通は断っていて。
でも、それを受けると言った。
鷹通をとられる……。
例え愛情のない結婚でも、いくらか経てば愛情も生まれるだろう。
子供が出来たら、優しい鷹通のことだ。愛情をたっぷり注いで育てるに決まっている。
そう思った途端、花月の感情は止まらなくなった。
結婚する日が来ようと、鷹通の側にいると思ってたのに、いざ話を聞くと黒いモノが心の中を支配して行く。
他の人のモノになるなんて耐えられない。
どこかの令嬢を迎え入れ、あの優しい眼差しで見るのだろうか。
「……鷹……通、様」
嫌、だ。
そんなの、嫌だ。
「……嫌です……」
思わず漏れた言葉にはっとする。
一介の使用人が何と言おうと、鷹通には関係ない。
「も、申し訳ございません!」
玄関先で、朝から何をやっているんだろう。
鷹通は役員朝会があるというのに。
早く送り出さなくてはいけない。
足止めなどしている場合ではなく。
「……僕は『花月が僕を嫌いだったら』って言ったろう?」
鷹通は続ける。何故か笑顔で。
「花月が嫌だというなら縁談は断ろう」
「……え……?」
「嫌なんだろう?だからこの話は受けない。伯父には悪いが断る。」
何故、自分が嫌だと言えば結婚しないの……?
そんなこと言われれば、自惚れてしまう。
ただの下働きなのに。
僕は、貴方の何なんだろう……と。
特別な存在なのか……と。
「僕は花月が好きだよ」
ぎゅっと抱き締められた腕の中は心地よくて。
「……鷹通様」
好きだと言ってくれた。こんな自分を。
大切だと言ってくれた。こんな自分を。
「鷹通様……っ!」
どうやら涙腺が我慢の限界を越えたらしい。
これから出かけるというのに、スーツなどお構いなしに、鷹通の胸で泣きじゃくる。
「そんなに泣かないで」
そう言われても、もう止まらない。
「うっ……ひっく……鷹通、様っ」
「なんだい?」
「すっ……」
今度は、きちんと青い眸を見て。
「好きです……っ」
言う。
「は……初めて会った時から……っ」
ひどい顔をしているとは思うけど。
「お慕いしてます……っ」
やっと言えた。
鷹通は、わんわん泣きだす花月に困惑し、それでも拙く告白してきた10も離れた相手を見やる。
「僕もだよ」
そう言って、今までで一番優しい、恋人のキスをしてくれた――…。
-END-
鷹通さんと花月ちゃんのくっついちゃったってお話。笑
歳の差なんですが、たぶん10個も違わないです。7つか8つぐらいかな?(しっかりして!)笑
年齢はすごく悩んでるのですが……。
また今度!笑
何年も昔に書いたものなので、書き直そうかとも思ったんですが、もう同じものは書けないだろうということで、あえてそのままです。
シリーズの中でもころころと書き方が変わりますが、どうぞお付き合いください。
2008.01.16 ちょこっと改訂
石月神無
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