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original
春待ちの雪
 


「あ……」



雪だ。

小さい雪がちらちらと降ってきた。



夜空から白が降りてくる様は、なんとも言えない。






こうして窓から外を眺めていると、昔を思い出す。







『――寒くない?』


『寒いけど……綺麗だから』



『雪が好き?』


『んー……好きだけど、寒いのは苦手』



『みたいだね』


眺めを邪魔しないようにか、後ろから抱きしめられた。

そうやっていつも、この人は俺を暖めてくれる。




『寒いのは、苦手だ。……昔を思い出すから』

『昔?』

『……うん』



誰もいない部屋。

冷たい空気。

ただ布団で丸まっていることしかできなかった。




ここに来て、賑やかな毎日を送ってる。

例え一夜だけの相手でも、布団は暖かい。

――心は虚しくても。


でも今は……。






ぎゅっと着物を握ると、冷たくなったその手を包まれた。

お互いに冷えているけど、自分のよりも暖かい。





『あんたはいつもあったかいね』


『はは、そう? “春”だからかな?』



だったら俺も、と言おうとして、自分はあくまで源氏名なのだ、と口を閉じた。



『ねぇ、春菊』



『……なに?』




『明けない夜がないみたいに、明けない冬はないんだよ。春が待ってる』


『……うん』



『寒い冬は、暖めてあげるから。春を……二人で待とう?』

こうして夜が明けるのを待ってるみたいに、と言われて、何故か泣きそうになった。


ありきたりなことなのに。

甘い言葉なんか、たくさんの男と交わしてきたのに。




それでも、この人は違った。



まるで、本当に将来を誓ってくれているみたいで。


俺が、ここから出てくるのを待ってると言われたようで。



でも、所詮……。


その時はただ、ありがとうとしか言えなかった。














本当に、待っててくれるとは思ってなかった。


待ってるというよりも、迎えにきてくれたのだけど。



泣くほど嬉しかった。






今は、同じ雪景色でも。


温もりの感じない部屋でもない。

赤い格子越しじゃない。




変わらず、隣にいてくれる。







「どうしたの?」


「うん? ……ううん、思い出してただけ」



「もしかして、“春”の話?」


「え? うん」


「一緒だね」



そう笑って、毛布をかけてくれる。

もちろん、後ろから抱き着いてきて、その上に。




「今は冬だけど、“春”が来てくれたから、いつでも暖かいね」


「……馬鹿。それを言うなら自分もじゃん」


「うん。でも、ひとりじゃ自分が暖かいなんて気づかないでしょ? 二人なら、ね?」


「……うん」




昔と変わらない、柔らかい笑顔をくれる。

そんなあんただから。





「“春”が二人なんだから。冷えたって二倍早く暖められるよ」


そう言って指を絡めると、智春も笑った。


握り返してくれる、この手をこれからも。

隣にずっといられたら。



今は、絶望からの願いじゃない。


叶えられる距離にある。

側に、いる。




「春菊」


「ん? ……ん」



口づけされた唇は、やっぱり暖かかった――…。













●終●


ま た キ ス オ チ … !笑
今回は番外編ってことで。

春菊と智春のキャラが定まらない
(重症なんですけど!)笑


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あきゅろす。
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