[携帯モード] [URL送信]

original
きっかけ。
 

「「はぁ……」」

自販前の休憩所、オフィスで唯一リラックス出来るスペース。

志籐鷹通と鷹哉の兄弟は、二人揃ってため息をついた。

「……どうしたんだ兄貴。幸せ逃げんぞ」

鷹哉が足を優雅に組む。

「……鷹哉こそ。なにか悩み事でも?」

指を綺麗に組んだ鷹通が尋ねる。

「兄貴も悩みあんだろ?」

鷹哉は缶コーヒーを飲みおわると、ある程度離れてから備え付けのごみ箱へ投げる。

野球仕込みの、綺麗なフォーム。

ガコンッと音を立てて、見事に外れた。

「あ〜あ、初めて外したぜ。さすがに遠すぎたか?」

一人ごちる。

軽く5メートルほど離れたところから投げればなかなか入らないだろう。
ただでさえごみ箱には蓋が付いていて、缶一本分の穴が開いているだけだ。

そこを鷹哉は毎日外すことなく入れていた。今日を除いて。

外れてカラカラと転がっていた空き缶を鷹通が拾って、自分のと一緒に捨てた。

「なぁ鷹哉」

「なんだ?」


「僕が至らなかったのかな……」

「なにが」

鷹哉がもとの位置に戻って、また足を組む。

「花月が……」

「やっぱ花月かよ」

思ったとおりらしく、呆れている。

「花月が……跨いでくれないんだ」


「…………は?」


ちょうどピピッと休憩時間の終わりのアラームが鳴った。


「花月が、騎乗位は嫌だって言うんだ。主人を跨ぐなんてって……」

「……兄貴って騎乗位とか知ってんだ」

鷹哉が目を見開く。

「僕だってそのくらい知ってるさ」

鷹通がすねる。

「いや、なんかすっげぇ清純そうだから。いるじゃんトイレとか行かなそうなのヤツ。純白って感じの。そーゆー感じする」

鷹通は不思議そうに鷹哉を見た。

「僕はトイレ行くよ?」

「ただの例えだから真に受けんなよ」

鷹哉はだらんと壁にもたれかかりながら、少し天然気味な鷹通と話をする。


「「……はぁ」」


また、ため息。

二人で合計したらもうとんでもない数字になるほどしている。

「なぁ兄貴」

「なんだい?」


「葉月がさ……」

「なんだ。葉月ちゃんか」


「ちゃん付けんな」

体を起こして鷹哉も指を組む。

「葉月が、バックはやだって言うんだ。何でだと思う?」

「さあ。よく『獣みたいで嫌』って言う人いるみたいだけど」

「……どこで知識を得てんだアンタは」

鷹哉が苦笑いする。

「恥ずかしいとかならさ、もう十分やってるから今更なんだよなぁ……」

「じゃあどうして?」


「俺が聞いてんの。それを」

二人とも、社内きってのいい男のはずなのに、頭のなかはこんなことばっかり。

「花月はすんの? バック」

「するね〜。あの子のことだから嫌でも何も言わないだろうね」


「現に騎乗やだって言ってんじゃん」

鷹哉のその言葉に「あ、そうか」と納得する鷹通。

「葉月ちゃんは騎乗位したりするのかい?」

「だからちゃん付けんなって。アイツは俺んとこ御主人様なんて思ってねぇからな。余裕で乗るぜ? まぁあんまりしないけど」

鷹哉は胸ポケットから煙草とジッポを出す。

「あれ? 煙草やめたんじゃないのかい?」

「まぁ、葉月が煙草臭いの嫌いだからやめてたんだけど、たまにはいいだろ」

素早く1本だけ取り出すと、慣れた手つきで火を点ける。

鷹通が灰皿をそばに寄せると、鷹哉が「お、さんきゅ」とウインクした。

仕事時間はとっくの昔に始まってるというのに、二人はそれぞれため息をつくばかり。


「どうしてなんだろう……」

「どうしてなのかねぇ〜」


鷹通が天井を仰ぐ。

鷹哉は、鷹通に出来るだけかからないようにして煙を吹く。

「あれ、使ってみるか」

煙を目で追いながら鷹哉がぼそっと言った。

「あれって?」

「ん〜通販で買ったんだよ」


「何を?」

「見るか?実物」

そう言うと立ち上がり、煙草を揉み消した。


副社長室に向かう鷹哉の後を鷹通が追う。

引き出しから段ボール箱を出して開けてみせた。

「何だい? これは」

「説明書も入れとっからちゃんと読めよ?」

箱ごと鷹通に渡す。

「花月に使ってやれば? これ。どーゆう時に使うかぐらい知ってんだろ?」

「知ってるけど……いいのかい?」

「いいっていいって。やるよ。俺はこっちあるから」

もう一つ箱を出してきてぽんぽんっと叩く。

「それは?」

「こっちは秘密。俺のオジョーサマに使うやつ」

鷹哉は心底楽しそうに笑った。

「今夜にでも使ってやりな。俺も使ってみるからさ。お互いうまくいくといいな、初陣」

「ありがとう、鷹哉。さっそく使わせてもらうことにするよ」

鷹通も笑顔で返す。

屋敷にいる花月と葉月は、これから起こることなどまったく知らない――…。





―――――――――

きっと自販のとこだけ休憩終了のアラームが鳴るんだよ……!笑


1/1ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!